千代紙

 小学生の頃、クラスの後ろには荷物置き場とかに混じって「おもちゃ箱」があった。といっても、トランプや地球ゴマ、お手玉のような古風な遊び道具が入っているだけだったが、自分を含むインドアな児童はその辺りに溜まって休み時間を過ごしていた。


 そんなおもちゃ箱には、時々折り紙の切れ端が落ちていた。変わったジグザクの線で切り取られたようなその切れ端がどういう過程で生み出されたのか、なんだか気になって仕方がなかった。


 何人かに訊いてみても、特に不思議なことだと思っている人はいなかった。折り紙セット自体はもともとおもちゃ箱に常備されていたので、みんなただ、何かの拍子にそれがちぎれただけのものだと思っていたのだ。

 でも、その折り紙は、ただの一色の折り紙ではなく、千代紙のような模様の入ったもので、授業や教室の飾り付けに使っているものの切れ端なら、それとわかりそうなものだった。


 僕は見よう見まねで、その切れ端を再現してみた。そうすることでこのミステリーの答えに近づけるのではないかと期待してのことだったが、これが思わぬ成果をあげた。


 切れ端をおもちゃ箱の中に残したまま帰った次の日、上履きの中に千代紙の切れ端が入っていたのだ。そのジグザグに切られた痕跡を見ても、偶然やいたずらではなく、「何か」が答えてくれたのだと感じた。

 僕は興奮して、自分なりに工夫しながら切れ端を作り、おもちゃ箱の中に入れる行為を続けたが、あるとき唐突に飽きてしまった。毎朝上履きから切れ端を取り出して律儀にスクラップしていたような子供が、不意に全て馬鹿馬鹿しい気持ちになって、切れ端を作るのをやめてしまった。


 それでも、上履きの中には毎朝切れ端が入っていた。スクラップブックを捨てても、それは続いた。うんざりした僕は、上履きを逆さにして下駄箱に入れたまま帰宅することで拒絶を示すことにした。


 次の日、逆さまになった上履きを持ち上げた僕は、思わず悲鳴をあげた。上履きの中にぎっしり詰まっていたと思える量の、千代紙の切れ端の山が、ざあっと溢れ出したのだ。この事件は当然多くの児童や教師に目撃され、放課後に呼び出しを食らった。


 子供の意地というか、いたずらや、ましてやいじめに巻き込まれていると思われるのは絶対に嫌だったので、教師には自分でやったと言い張った。優等生で大人しい子供と思われていたことが幸いしたのか、深く追求されることはなかったが、おもちゃ箱にはしばらく近づく気になれなかった。


 幸か不幸か、それ以来おもちゃ箱の中にも上履きの中にも例の切れ端が現れることはなかった。

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