インスタント転生〜底辺からの人生逆転、推しと妹を守って今度こそ幸せになる!〜
古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中
第1話 推しのため
俺は
最近突如現れた新人。
しかし、『
演技もいい。
悲壮な不幸少女の演技をさせたらきっと同年代の女優で右に並ぶ者はいないだろう。
儚げで、しかし芯がある。
俺の理想の女の子が、そこにはいたのである。
ネットドラマでどハマりし、新人女優ながらも大手インスタント麺企業の新商品のCMに抜擢。
バーコード五枚一口で応募すると、亜久亜ちゃんグッズが当たる。
A賞、B賞、C賞、全部ほしい!
A賞は抽選で十名!
当選確率を上げるために俺ができるのは、対象賞品を大量購入して弾数を増やすのみ!
そう、俺はその日から食った。
対象のインスタントラーメンを食って食って食って食いまくった。
元々肥満体型のクソデブオタメガネのことなど、誰も気にしない。
天涯孤独になってから、コンビニ以外ほとんど家からも出ないし。
だから俺にとって、君が——亜久亜ちゃんが、光なのだ。
彼女に微笑んでほしい。
彼女に一目惚れしたあの日から、俺は、君のためにこの一生を使おうと決めたのだ。
推す。
たとえ君が俺を知らなくても構わない!
全財産……家賃光熱費以外……君に捧げよう!
「うおおおおおおおおおお!」
……そのキャンペーン期間中……俺は地獄を幾度も味わった。
その難敵は“飽き”!
味変してもラーメンばかりは飽きるに決まっている。
米が食いたい。
パンが食いたい。
肉が食いたい。
野菜が食いたい。
麺以外のなにかが食いたい!
いいや、負けるな!
すべてはA賞!! 亜久亜ちゃんの目覚まし時計(録り下ろしヴォイス全32種類)のため!!
亜久亜ちゃん! 俺頑張るよ!
どうか俺のところに舞い降りてくれ!
「よし、これで……百……」
吐くほどの努力。
百口揃えてコンビニのポストに入れ、ふらふしながら帰宅の途に着く。
待っているのはインスタントカップ麺。
正直、一生分のカップ麺を食った気がする。
もうカップ麺見たくねぇな、とすら思ってるよ。
でもさ、亜久亜ちゃん……俺、君を応援したいんだ。
駆け出しの君にとって今回のインスタントカップ麺のCMとキャンペーンは本当に大きな仕事——ビッグチャンスだと思う。
俺にはわかるよ、君はもっと大きな空へと羽ばたいていくって。
その足がかり、台座、滑走路、踏み台になれるのなら、俺は喜んで……。
「うっ!」
突然、胸を刺すような痛みが襲った。
コンビニを出て階段を上ればすぐ俺の部屋なのに、俺は階段に到達することなく倒れる。
え、痛い。なんかもう意味わからんくらい痛い。
い——いたたたたたたたたたただだだだだだだ!?
「きゅ、きゅうきゅうしゃ……」
誰か。
誰か助けて。
手を伸ばすが誰も気づいてくれない。
誰も歩いてない。
平日の日中に歩いてる奴なんて、俺みたいな在宅ワーク者ぐらいなもん、か。
やばい、痛みで意識も……………………。
亜久亜ちゃん……ひと目、生でも見たかっ……た————。
『……めよ……』
「っ」
『目覚めよ、選ばれ者よ』
「……なんだ?」
痛みで気を失った俺は、真っ白な空間にマッパで横たわっていた。
男の声で目が覚め、上半身を起こす。
振り返ると、ラーメンが一杯。
正直見るのも嫌になっていた、対象商品のあのカップ麺。
「え」
『私はインスタントの神、ソクセキ。半年近くの期間中、カップ麺を一途に食べ続けた君には特別賞として転生の資格を与えようと思う。私は感動したんだ。人間、どんなにインスタント食品を愛していようと半年間ずっと同じインスタントカップ麺を食べ続けることなど不可能に近いだろう? だが君はやってのけた。素晴らしい功績だ! 全世界記録として殿堂入り級の伝説だ!』
「…………」
ラーメンが喋ってる。
ラーメンから声が聴こえる。
どっちだ?
「そうか、俺は死んだんですね」
これが流行りの異世界転生。
待てよ、じゃあ俺にはチート能力がもらえるということか!?
『そう! そしてインスタントラーメンをこよなく愛してくれた君には! 私から望みを一つだけ叶えよう!』
「亜久亜ちゃんと結婚したい!!」
いや、わかってるよ?
亜久亜ちゃんは俺の推し。
彼女の躍進こそ俺の望み。
可能ならば彼女が羽ばたいていくところを、ずっと見ていたかった。
だがしかし、俺は死んでしまった。
次に生まれ変わる時、亜久亜ちゃんみたいな超絶理想の権化みたいな女の子と結婚して幸せな家庭を築き、家族に信頼され尊敬され一生を過ごしたい!
『それは無理』
「おい神様」
『だって私、神としては生まれて日が浅いんだもの。叶えられる願いの難易度低めでお願いしたい』
「くっ、確かにインスタントの歴史は1958年にニッ◯ンさんがチキ◯ラーメンを発売したのが発祥! 誕生から六十年余年と思えば無理は言えないか!」
『詳しいね君ぃ! そうなんだよ!』
新人に無茶振りをしてしまったというわけか。
引きこもりがちの住宅ワーカーとはいえ社会人として恥ずかしい。
これではクレーマーみたいではないか。
「逆にどの程度の願いなら叶えられるのでしょうか。こちらとしてもよいお取引をしたいので、神様の叶えられは願いの範囲というものをヒアリングさせていただければと思うのですが」
『そうだな…………君の転生先でこのやりとりと前世となってしまった今の君の記憶を残す、くらいな感じだろうか』
想像以上にしょぼかった。
『だが、君の偉業には感動させてもらった。君をあそこまでかり立てたのは、あの亜久亜ちゃんとやらのため、だろう?』
「は、はい。まさしく理想そのものでした……」
『よろしい。上手くいくかは君の転生先の創世神の匙加減だが、私の希望を君の魂に貼りつけておこう。転生先の神が叶えてくれるかもしれない』
「お、おお! なるほど!」
期待はあまりできない、ということのようだが……十分だ。
では、と俺はラーメンの前に土下座する。
「亜久亜ちゃんと……いや、見た目も中身も亜久亜ちゃんそっくりな女の子と結婚して幸せに暮らしたいです! できれば来世では太りづらいほっそり体型のイケメンで、コミュ力高めでお願いします! あと、流行りの異世界転生にはチート能力が付き物なので、なにかいただけたらと!」
『結構言うね。でもオーケーオーケー。はっ!』
「あうち!」
なるとが三つ飛んできて、俺のデコにクリティカルヒッッッッッ!
『では、旅立つがいい……選ばれ者よ。君の人生に幸多からんことを』
「あ、ありがとうございます! 神様!」
こうして、俺は旅立った。
新たな——第二の人生に期待を膨らせながら……。
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