Rip
「ほら、早く。名前と住所、年齢」
「山井 幸、18歳です….住所は山形県のどこかです」
薙が傷口に爪を立てて問い詰める。山井は新鮮なあざがついた目をぱちぱちさせながら、せめての抵抗を試みている。
「住所は教えてくれないの? 山井ちゃん。実は私も18なんだ、同い年なんだしさ、もうちょっとフレンドリーにしない? ほら、タメ口でいいよ」
「ふへ….い、いや、実家に住んでるんですよ…だから、さ、勘弁してくれないかなぁっ、て」
「実家住まいなんだ。可愛いね。目ぇ開けて」
「あ、う、うん」
「エメラルドみたいな色してるんだ」
「あっ、そうなん….そうなの! あの、それに合わせてイメージカラーを決めたの!」
女子会が始まっている間、俺は何をしたらいいのか。やはり売店で何か腹を満たすものを買って来るべきなのか。邪魔する訳には行かないしな、せっかく新たな仲間が出来たんだ。
「薙、何か食べ物を買って来るぞ。要望はあるか?」
「うるさい、じっとしてろ」
「分かった」
早い返答だった。
「山井ちゃん、脚の血は止まった?」
「と、と、止まってない…」
「そりゃそうか、まあいい、行くぞ」
「行くって….?」
「私の家に行くんだよ。道連れだ、一緒に死んでもらうぞ」
「え?」
理解の追いついていない山井を他所に、俺たちは駅を飛び出した。もう七時は超えている筈だが、周りに人気はない。閉塞な住宅街に出た。学校へ行くんだろう、小学生がランドセルを持って歩いている。昔は俺もあんなに小さかったんだ、懐かしい。
「鹿…谷さんはなんで薙と一緒に居るんです? ボディガードかなんか何ですか?」
「まあ、そんなところだ。退屈だったからなのもあるな」
「退屈だからってだけで? 危険だとは思わなかったんです?」
「そりゃあ思ったが、ただだらだらと日常を送ってるだけだと、貴重な肉体の成熟期が勿体無いだろ」
「はぁ、理解できませんが、理解しました。あっ、ちょっと肩貸して下さい。転びそうです」
「右腕は折れてるからな、左に乗せろ。今しゃがむ」
立ち止まり、左肩を傾ける。腕が絡まった。
「ふむ、なかなか頼り甲斐がある肩ですね。あ、少しゆっくり目に歩いて下さいよ。痛むので」
「ああ、これでもキツいならおんぶしてやる」
「….やめて下さい」
楽しい雑談を交わしながら、住宅街を移動する。右側の家の窓に光に反射する何かが見えた。
「薙、あれ、なんか光ってないか」
「銃口だな。私たちの人数が契約よりも多かったんだろう、渋ってる」
「私も撃たれるんですかね..?」
山井が喋った後、ガラス片が道路に散らばった。先程の窓から何かが消えている。前からは二人の通行人、子供だ。前を歩いていた子供の頭から銃弾が突き抜け、淡い色の血が噴き出る。もう一人は無事だ。屈みながら道路に横付けされた車を盾に身を潜める。山井はまだ肩に手をかけていた。
「あの子供はもう死んでます。息が荒いですよ、少し落ち着かせて下さい」
「あっ、ああ..分かってる」
「弾が貫通後、炸裂していました。9mm R.I.P弾ですね。殺し屋にしては派手な奴です」
「お前がそれを言うのか」
「私は引退予定でしたからね! とにかく、頭を出さないこと、私を盾にしないことです」
「盾にするって手もあったか」
「し、しないでくださいよ?」
薙は塀を乗り越えて、左側の家に入ったようだ。刀が塀に立て掛けられていた。弾は飛んでこない、こちらが頭を出すのを待っているんだろう。ジャムのような赤いものが道路に塗りつけられている。あれが何かはあまり考えたくない。
「慎重な奴ですね。9mmなのでハンドガンの筈なんですが、近付いて来ていないようです」
「そういえばだが、此方にも銃があるのを忘れていた」
「は? 早く言ってください、弾はありますか?」
「無い」
「私の弾をあげますよ。ほら、銃を貸して下さい。鹿谷さんが撃つよりかはマシです」
「俺を撃つのか?」
「え、い、いや、違いますよぉっ!」
「弾を貸せ。早く」
「ほら、これでいいんですよね!」
マガジンが二つ手渡された。これで全部な訳がないだろうが、今はそんなことにいちいち突っかかってる場合じゃない。山井を振り落とし、銃にマガジンを込める。左手でグリップを握り、車の影から銃口を出す。小学生二人の死体以外、なんの異常もない道が見えた。銃身を剥き出しにし、一発撃つ。何の反応もない。うつ伏せになり、車体と地面の間から除き見る。タイヤが破裂し、車体が斜めに傾いた。
「ジリ貧ですよ。このままじゃ」
頭を上げる、弾が車の屋根に当たって跳ね返る。拳銃を持ったTシャツの男が見えた。腕を上げ、銃を撃つ。銃身に弾が当たり、軌道がズレて消えていく。一発目が男の脇腹に当たり、二発目が胸に入り込んだ。
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