第22話
「ちくしょう!」
「テッド、落ち着け」
城から出たと同時に、テッドは叫んだ。
「お前は悔しくないのか。給料も減らされて、あいつらは同じ生活を送る気なんだぞ」
「悔しいよ。でも、俺達じゃあ、どうにもできない」
テッドは目に涙をためながら何も言わず、そのまま家路へと向かっていく。オルスはた
だ、背中を見つめていた。
次の日の兵舎は、いつもよりもさらに重い空気に包まれていた。
「オルス、全員に伝えるってことは、良くない事だよな?」
仲間の一人が言った。オルスは頷いた。
「給料がさらに減らされる。それでまた、俺が都市を回る。儀式を行って、住民たちを安心させるそうだ」
「なんだよそれ」
周りの仲間たちが、大きくため息をついた。
「隊長がきたぞ」
現れると同時に、全員が起立した。それを見た隊長は、少しホッとした様子だった。伝達は、オルスが言ったのと同じ内容だった。
「なんだよそれ、木剣で殴り合えってか」
「こりゃ、本気でやばいことになってきたな」
「なあ、クレチア王国の話を聞いたか。あっちの生活、食料がパンと肉と、スープらしいぞ」
「どうして?」
「国王が、貴族の税収をなくしたんだ。それで、国民の生活はなんとか保たれているみたいだ」
「だったら、クレチアに引っ越そうかな。ここにいたんじゃあ、飢え死にしてしまう」
魔法研究所へ向かった。同じように、静まり返っている。中に入ってオルスは驚いた。至る所に白いシーツが敷かれていた。小さな魔法使い達が、黙々とこなしている。
「オルス、どうした」
研究器具を片付けているテッドが、オルスに気づいた。
「閉鎖じゃないだろ。昨日の今日だぞ」
テッドは首を振った。
「今朝、通達が来たよ。一時閉鎖だって。たぶん、もう開かれないだろうな」
悲しい顔をしながら、テッドは作業を続けた。
「テッド、布をくれ」
所長の声に、テッドは白い布を持っていく。それは肖像画だった。所長に白い布を渡すと、その肖像画を手に取った。
「この人が初めて、魔法を研究した人なんだ。名前はレイボウ」
半身画で、青のスタンレーローブを着ている。そして両手には、小さな火が現れ、包み込むようにしている。
「ある冬の日。家から帰ってきたレイボウは、暖炉に火をくべた。そして、手を温めたんだ。その時、火の粉が、レイボウの手に当たった。熱さで手を引っ込める。火傷をしていないかと思って手を見てみたら、自分の手に、小さな火が現れたんだ。それが、魔法の始まりだ」
近くにあった本を手に取る。
「それ、小さい時にテッドがよく読んでいた本だよな」
魔法の歴史と書かれてあった。
「何度も読み返したよ。なぜ自分の手に火が生まれたのか。どうすれば、そんな事ができるのか。レイボウはその理由に生涯をかけた。そのおかげで、色々な魔法ができたんだ。魔法の出し方もわかってきた。頭の中で念じる。手に集中させると、より強力な魔法ができる。でも、どうして火が産まれたのか。それはまだ解明されていない」
「そうなの?」
「ああ。俺の夢は、それを解明することだった。それができたなら、もっと魔法が使えたのに。それだけじゃない。みんなにも魔法が使える。賢者が杖を持っていただろ。今の魔法は、頭で念じて手から出す。でもあの杖は、唱えただけで、発動できる。より魔法が身近になるんだ。それに、天候だって解明できたかもしれないのに」
所長はその肖像画にも、白い布をかけた。
「他の国では、魔法の研究は続くんだろうな。だけど、この国は終りだ。この本はもらっておこう」
テッドは自分のバッグの中に、本を入れた。
「なあ、小さい子達はどうなるんだ」
「わからない。もしかしたら、他の国に行くかもな。その方が幸せだと思うけどね」
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