第14話
一週間後、太陽が真上にくる前、土木工事が完了した。気づけば季節が変わっていた。木についていた葉は、枯れ果て落ちている。帰り道、頬を赤く染めている兵士達は暗い表情をしていた。
「これで、戦争の準備ができてしまったな」
白い息を出しながら、仲間はオルスに呟いた。
「ずっと土木工事しかしていないんだぞ。クレチアも準備しているだろ」
「貴族は何を考えているんだ」
オルスが家に帰ると、テーブルに母親が頬杖をついていた。外と変わらない寒さ。暖炉に火が焚かれてない。薪すらもなかった。
「ただいま。どうしたの?」
「もう、薪すら買えないのよ。高くなってさ」
母親は、深いため息をつく。
「作物はもう、育たないようだな」
「この雨だもん。しかもこの寒さ。晴れたのなんて、たった二日よ。しかも、暖かくもならない。これだと、飢え死によ」
そこに、父親が帰ってきた。
「仕事がなくなった」
「どうして?」
「上からの命令だ。ついさっき、決まった。税金も、取られる事になる」
その言葉に、オルスは驚き、困惑した。
巡回の日になったオルスは、いつものように、繁華街から歩き始めた。十店舗も列をなしているが、八店舗は扉が固く閉められている。商売をしている店は、わずかに二軒。呼び込みはなかった。
陳列されているものは、ホコリが被っている。だが、店主は何も感じておらず、椅子に座って外を眺めていているだけ。
城外に出ると、久しぶりに硬い土の感触を味わった。オルスは少し歩いた。
麦畑には、何も残っていなかった。少し遠くから、大きな煙が見える。腐った麦を燃やしているのだとわかった。
森に近づき、オルスは足を止めた。人の気配がした。物音、話し声。自然とロングソードを握る。
「ああ、オルスさん」
「ミラーユさん。ここで何をしているんですか?」
「家賃が払えなくて、追い出されたんです。で、この森に住んでいます。運良く、ここは誰の管轄でもないんでね」
そこには、ミラーユの家族がいた。そこら辺に落ちている木でテントを作り、ボロボの布を屋根代わりにしている。
「お父さんは、知っているんですか? 組合に言えば、お金を払ってくれるはずです」
ミラーユは首を横に振った。
「その金すらありません。オルスのお父さんは、頑張ってくれましたよ。でも、もうお金がないんです」
周りを見る。そこには、追い出されたであろう、人々が暮らしていた。
「あの、助けてください。医者を、医者を」
横から一人の女性が小走りで来た。女性は子供を抱いていた。ぐったりとしている。
「私が眠っていた間に、腐ったパンを食べてしまったんです」
近くに、屋根だけの建物があった。そこには、城から配給された、パンが詰め込まれている箱がある。オルスは駆け寄った。そこには、紫や緑、白い綿が大量に生えているパンが、山ほど残っていた。
「なんだよ、これ」
「送られてきた時に、底の部分ではもう、腐っていたんです」
オルスはすぐさま、子供を抱えて城門へと戻った。入ると、すぐに右に曲がり、兵士専用の病室へと向かう。
巡回が終わり、オルスがいつものように、勇者の家に向かっていた。ドアの前に立つと、中から話し声が聞こえている。いつもより小さめにノックをした。
「オルスか。入れ」
「失礼します」
ドアを開けると、中にいたのは、勇者とテッドだった。
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