第11話
翌日。朝から大粒の雨が降っていた。その雨は、日が経つごとに、強くなっていく。
「死んだ仲間が、泣いているのかもな」
誰かがそう言った。
「訓練はなし。引き続き見張りと巡回に当たれ」
オルスはあくびをしながら、見張り塔から街を眺めていた。誰も、外に出ている人はいない。商店街や酒場も、ほとんど人の出入りはなかった。
「おい、すぐに兵舎に来るんだ」
仲間が駆け寄ってきた。
「何かあったのか?」
「土砂崩れだ。この雨のせいで、街道が崩れてなくなったらしい。至急、直すそうだ」
オルスは兵舎に向かった。そこにはすでに、多数の兵士が椅子に座って仲間と話している。
「聞いたか。土砂崩れよりも、すごい話だ。クレチア王国が、戦争を始めようとしている」
「境界線の近くまで、行軍をやっているらしい」
皆、持ち合わせた噂を口々にし、目を泳がせていた。
「オルス、ここの席が空いているぞ」
仲間が椅子を引いた。そこにオルスが座る。
「お前、知っていたのか? クレチア王国の事」
オルスは頷いた。
「旅先で知らされたよ。今思えば、祝勝会の時だって、貴族たちは早々に抜けて、色んな人と話し合っていたよ」
「なぜ、言ってくれなかった」
「黙っていろと」
そこから、仲間達に次々と質問攻めにあった。
「勝算はあるのか? 俺たちは今まで魔物しか相手にしてこなかったんだぞ」
「クレチア王国は、どうしようとしているんだ」
オルスは全ての質問に対して、首を横に振った。
「わからない」
そこに隊長がドアを開けて現れた。反射的に起立する。隊長は兵士たちの前に立った。
「皆も聞いているだろ。街道が土砂崩れと水浸しになってしまい、往来が不可能との判断だ。だから早急に、新しい道を作る。住民達にも参加してもらい、水害に遭っていない場所の森を伐採していく」
隊長はそこで話を終わらせ、兵舎から出ていく。兵士の誰もが嫌な顔をしている。ドアが閉まる。誰も何も言わなかった。
翌日、オルスは革の鎧は着ていた。手には斧が握られていた。それを見て、ため息をつく。
「ではこれより、開拓場所に移動する。全員、進め」
オルス達は、西の門から出て行った。辺りを見回しても、住民の見送りはない。仲間から、覇気は感じられなかった。見張り台から、仲間が手を振っている。
「こんな事、している場合か?」
「クレチア王国に、進行させやすくしていないか? ちゃんと考えているのか?」
「ああ、くそっ!」
前の方で、誰かが叫んだ。同時に行進が止まる。すぐに再開したものの、先ほどよりも遅くなった。
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