第12話

「はるか昔、プラッカー王国は、神によって造られた。そして代々、神の子であるわが祖先によって、繁栄し続けてきた。だが、数百年前、突如として魔王城が現れた。魔王はそこを寝床とし、魔界から魔物を送り出してきた。そして神の子供達である我々を、苦しめてきた。我々は何度も負けた。だが、何度も立ち上がり、学び、魔物を知り尽くした。時が来たのだ。魔王が、魔物がこの世から消え去ることを。我々の生存権を脅かす者は、誰にも許してはならぬのだ」


 その日の朝は、蒸し暑かった。木々の葉は、濃い緑色をしている。


 国王は演説を終えた。雷鳴のような拍手と、地響きのような歓声に包まれ、兵士達は正門の方に向かって、行進した。二階の窓や玄関から、民衆たちが手を振り、紙吹雪が舞っていく。


 オルスを含め、周りの兵士達に、笑顔はなかった。


「こんな光景、これが最後かもな」


 隣にいた仲間が、ボソッと言った。オルスは何も言わず、ただ前を向いて行進をしていく。


 あの十字路へ。西にある魔王城に向かって行進をしていく。太陽が真上に来た時、兵士たちは木陰で、昼食をとった。


 休憩中、たまたまテッドと会った。二人は腰を下ろし、乾燥したベーコンをかじっている。


「今日の夜には、魔王城付近の砦に到着。で、太陽が昇ったら、攻撃開始か。そう言えば、勇者は来ているのか?」


 オルスが頷く。


「ああ、別の所にいる。今も、当時のことを思い出しながら、隊長と話し合っている。賢者は? 引っ越してから、全く見ていないぞ」


 テッドは、ベーコンをかじりながら、


「一緒に魔法の研究をしていたよ。あの人は凄いよ。後で、その魔法を見せてやる」


 昼食が終わり、再び行進していく。見渡す限り、魔物は一切見当たらなかった。


「先発隊が、倒してくれているらしいな」


 翌朝も、行進を続けた。そしてオルスの目に、魔王城が見えてきた。どんどんと近くなっていく。周りの兵士たちの緊張感が、ヒシヒシと伝わってきた。


 夜、砦に着いた。丘の上に建てられた砦から、魔王城を眺める。テッドは魔法を使い、周りをじっくりと眺めている。


「それは、なんだい?」


「賢者に教わったナイトゴーグル。夜でも見える望遠鏡みたいなものだ。敵の配置は予想どおり。いよいよ明日から本番だな」


「で、もう少しで月が真上だ。魔物が復活するぞ」


「魔物復活!」


「ほいきた」


 門番をしていた兵士が叫んだ。二人は素早く武器を片手に、外に出ていく。


 目の前に魔物がいた。動物の姿をした、二足歩行の魔物達。攻撃から攻撃の間が、プラッカー王国周辺の魔物よりも、やはり早い。隊長が叫ぶ。


「いいか、今までの訓練を思い出せ。冷静に相手の攻撃パターンを見極めるんだ」


「ライオードを唱えろ!」


 テッドが指示を出した。


 魔法使い達は、砦の屋上から呪文を唱え、両手に光を作り出す。


 そして次々と、森の中へ光の球を入れていく。今までのライトボールよりも、発光が強い。離れた敵の姿が、よりはっきりと見える。


「一斉に唱えるぞ!」


 テッドがそう言うと、一斉にライオードの呪文を唱えた。光が森の上に集まる。より大きい光が差してきた。


 隊長の指示の元、オルス達は周辺の敵たちを攻撃していく。


「森の深くには入るな!」


 目の前に、トラの姿をした二足歩行の魔物がいる。両手には、鉄の爪が装備されていた。


「相手はタイガーン。素早いから気をつけろ!」


 オルスはロングソードを両手持ち。タイガーンが低い姿勢になり、左足を前に出した。右手を引く。オルスも姿勢を低くし、相手を見定める。


 タイガーンが駆け出す。一気につめ寄ってきた。右手からの攻撃を、オルスは冷静にロングソードで受け止める。


 相手の攻撃が終わる。少しの間ができた。オルスはすぐに攻撃。がら空きの胴に、ロングソードを突き刺した。相手は動くこともできなかった。


 首がガックリと下に垂れると、蒸発をした。


「トンペイが現れたぞ!」


 豚の姿をした槍兵。オルスは距離に注意した。トンペイは間合いを十分に取り、オルスの腹部にめがけ槍で突き刺す。オルスは、左腕に装備されている、バックラーではじき返す。トンペイは槍を引いた。少しの間。オルスは、敵の頭部めがけてロングソードを叩きつける。相手は消え去った。


「オーガが現れたぞ!」


 オーガは巨大な鉄槌を振り回しながら、砦に向かって突進をしてくる。


「まだ相手にするな。止まってからだ!」


 砦の門を壊した。中にも、多くの兵士たちがいる。


「陣形を組め。ディフェンス!」


 前方に、重装兵が十人、オーガに対峙するように並んだ。その後ろに、弓兵が左右後ろに並ぶ。


 オーガが巨大な鉄槌を、重装兵に振り下ろそうとした。そこに、数本の矢が飛んでくる。オーガの目に当たる。


「足を狙え!」


 重装兵は、オーガの足を斧でたたき切る。叫ぶオーガ。そこに軽装兵が、次々と切り込んでいった。オーガは倒れた。


「周辺の敵、いなくなった模様です」


 その報告と同時に、他の砦から、白い花火が打ち上げられた。安全とわかった。


「警戒を怠るな。休めるものは、休め」


 だが、興奮して眠れない者がほとんど。オルスもその一人だった。胸の高鳴りがずっと続いている。とにかく目を瞑った。


 夜が明ける。寝られたのは、わずかだった。上半身を起き上がらせる。周りの者も、同じだった。


「みんな、よくやった。最小限の被害だ。いよいよ、魔王城へ攻めるぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る