第16話 燕ロス
今の家に引っ越してきた年、玄関に燕が巣を作った。縁起がいい気がして巣立ちまで静かに見守った。翌年、夫が巣を作りやすいようにと壁に板を貼ったら、様子を見に来たきり巣作りはせず、以来十数年、燕が来ることはなかったのだが、去年の6月、急に燕が戻ってきた。
燕にしては巣作りの時期が遅いように思ったが、あっという間に立派な巣を作り上げ、卵を温めている様子がみられると、数日後にはチイチイとかわいい鳴き声が聞こえ、5羽のヒナが生まれた。
朝からピーピーと賑やかで、ヒナたちはみるみる大きくなっていった。巣からはみ出すほど成長し親鳥と同じ位になると、飛行訓練を始めた。巣立ちの近さを感じて寂しくもあったが、貴重な場面を見られて感動した。やがて、親鳥と共に飛んでいく姿を見たのを最後に巣に戻ることはなく、無事に巣立ったことに安堵し達成感も感じた。
今年も燕が帰って来た。去年と同じ燕なのか、去年の巣に入り始めた。耐久性は大丈夫かと案じていたら、ちゃんと新しい泥で修復を始めた。燕の警戒心の強さは知っていたのに嬉しい気持ちが先走り、巣作りの下で燕の受け入れ準備を始めてしまったら、急に警戒するように鳴き合うと夕方には燕たちは姿を見せなくなってしまった。
また十数年、家に巣を作りに来ることはないかもしれない。夫の二の舞。私のバカ。後悔先に立たず。想像以上の燕ロス。鳥のさえずりが聞こえると、静かな玄関先にまだ燕の姿を探してしまう。
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