第11話 犬のいない生活

 9月中旬に愛犬が急逝した。あと3週間で13歳の誕生日を迎える時だった。とても賢くて優しい犬だったので、私たちに心配をかける時間を最小限にして逝った。

 犬がいなくなってから、生活のリズムも体のバランスも崩れた。

 目覚まし代わりの朝の鳴き声、朝夕の散歩、大きめの声でする挨拶や話しかけ、一日に何度もするハグ、大好きだよと言いながら戯れる、犬とのやり取りが生活を占めていた。犬がいなくなった途端、運動量が激減、陽の光を浴びる時間が減ってビタミンが不足、声を出す回数も減り喉が弱まり、犬を触ることで生成されていた幸せホルモンが出なくなり、不調をきたすようになった。

 体調だけではない。トイレをさせに日に何度も庭に出ていたのに、伸び放題な垣根も大量の落ち葉も目に入らなくなり、庭が荒れた。犬の抜け毛がなくなり掃除の回数が減り部屋がくすんだ。おやつ代わりにあげていた野菜の芯や茎などを廃棄することになり、生ゴミが増えた。犬のぬくもりがなくなった上、犬がかすがいだった夫婦関係が冷えを増し、暖房費が増した…のは大袈裟か。

 体調不良で婦人科にも内科にもかかったが病気は見つからず、犬がいた時のような生活をすれば改善するのではないかと散歩をしてみたが、犬と歩いた近所の道は思い出が多過ぎて涙が溢れてしまい、断念した。大型犬だったから、視界にも心にもポッカリ空いた穴も大きい。

 まだまだ犬のいない生活に慣れるのには、時間がかかりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る