ZAN

長田ふとむ

第1話 夢と現実と

1 石を説明するおじさん


「石にはね、意味があるんだ。それはね……」


 そんな夢を見た。どういう意味の夢だったのだろう? 

そもそも夢に意味はあるのかね。予知夢やら不吉な前触れとか言う人もいるけど、私はそんなこと今までになかったな。私の夢って、知っている人や芸能人しか出てこないのに、今回の夢は登場人物が私の知っている方々ではないのが気になる。


夢の内容は、子供が鳥かごを持っていて、その鳥かごの中に光る石が入っていた。恥ずかしそうに子供は街を練り歩いていて、いつの間にか正方形の部屋におじさんと二人でいる。おじさんの顔には光が当たっていないので、暗くて顔が見えない。子供はおじさんに説明されていた。ドラマのような俯かんした目線でその夢を見させられている私。

その二人は誰なのだろう?


 私はというと、金属加工メーカーの期間社員をしていたが、コロナ禍の不況で首になった四十歳独身の無職。群馬県の社員寮で住んでいたが、今は実家の千葉県で近所の目に怯えながら暮らしている。

四十歳で毎日家にいるのだから、ご近所さんは


「佐藤さんの息子さん、ニートにでもなったのかしら」


と言ってるだろう、被害妄想だけど。

近頃、ちょっと気になってることがある。私は目が悪くコンタクト生活だったんだけど、コンタクトを装着するのが面倒臭くなってしまった。年のせいかな。それで近所の眼鏡屋さんで、眼鏡に買い替えて眼鏡生活になってしまってからおかしなことが……

なんだかいつもと見ている世界か違う。


「あれ? 物の輪郭が色付いてる」


2 語るじいちゃんと母の口癖


 私は夢を頻繁に見るほうだと思う。昔に好きだった子の夢や、中学時代の部活の夢。そして中学時代のクラスでの出来事。ほかの人がどういう夢を頻繁に見るのか知らないけど、私は中学校の時の夢を多く見る。楽しかった思い出もあるし、やり直したい場面も多い。じゃあ中学時代に戻りたいのかと言われたら、そりゃ戻りたい。戻りたいんかい。

だってさ、違う人生になってたかもしれないだろう、今の無職とは。まさか四十歳にもなって無職とは思わなかった。今が一番つらい。


辛い時にはなぜだか死んだじいちゃんを思い出す。

じいちゃんとは色んな話をしたけど、昔気質のじいちゃんだった。消防士に従事していて、体育会の世界で生きていたせいか、男とはこうあるべきというのが強い方だった。

そんな亭主関白なじいちゃんとの思い出で浮かんでくるのが

 

「人生の最期に思い出すのは愛した人か愛してくれた人か、うさはどっちじゃろうな。わしは……」


人生って何を残していくのか。それは子孫であったり、技術であったり思い出だったり。今の私が出来ることはあるんだろうか。今の私には何もないな。今更過去を振り返ってもしょうがない。前向いていこう。

とりあえず気になっていること、眼鏡に変えた途端に変な色が見える事が病気じゃないか確かめるため、病院に行こう。

 

「母さん、ちょっと眼の調子が悪いから病院に行ってくるわ」

「あんた大丈夫なの? これ持っていきなさい」

「大丈夫だって。まだ貯金あるから」

「だめ!」

「あ、ありがとうございます」


母さんは五千円を財布から出して、私の上着ポケットに強引に入れてきた。こういうのがとても恥ずかしい。けれど、これに甘えてる自分も情けない。

昔あったな、親孝行って何って曲。母親はもう六十三歳だ。


 近くの病院までは歩いてける。決して近くはなくて歩いて四十分くらいだけど、まあ余裕だ。こんな足腰が強くなったのは、期間社員の経験のおかげだろう。ずっと歩き回る仕事だったから、歩くことに対して苦ではなくなった。なんなら今は歩くことが好きまである。

病院まで歩いている最中にふと尾行されている感じがして、振り返ると上から鳥の糞が肩に落ちた。

 

「最悪だ。運は付いているけど」


ハンカチをポケットから出し、バッグに入っているペットボトルの水でハンカチを濡らした。そのハンカチで肩の糞を取り除いていると、男性の笑い声と共に


「まだわかってないのかね」


と聞こえてきた。周りを見ても誰もいない、気のせいだよな。


3 始まりのアイズ


 病院に着くと、初診受付を書いて眼科の前で待っていた。今日はガラガラで、順番は次の次くらいに呼ばれそうだ。総合病院なので様々な科がある。周りを見渡すと眼科の隣の待合室は、精神科って書いてある。精神科は混んでいて、椅子の空きがないな。コロナ禍のこのご時世だから、うつになる方が多いってニュースでやっていたな。そんな事を考えていると、私の名前が呼ばれた。部屋に入ると三十前後の若い男の先生が待ち構えていた。


「よろしくお願いします」

「どうなされました?」

「最近ですね、コンタクトから眼鏡にしたのですが、

「モノの輪郭が色付いて見えてしまうんです」

「わかりました、様子見ましょう」

「(早っ!)」


やっつけか。早すぎて引く。もっと心配してくれてもいいのに。その後、先生に「似たような症例はありますか?」と聞いたところ、無いとのこと。冷たい先生だなと感じた。親になんて言おう。開始1分で終わったなんて言えない。とりあえず様子見らしいよと伝えよう。

会計を待っていると後ろで年配の男性が電話で話している。

 

「始まったな。ここまで生き長らえさせてやったんだから感謝しろ」


どんな電話だ。親戚との会話かそれとも友人なのか、どちらにせよ上から目線で腹が立つ。すると、その年配の男性は舌打ちをして席を離れた。

今日の私は色々とツイてないな。なんかイライラする。そうだ、帰りはコンビニの喫煙所でタバコ吸って帰るか。


 病院での会計が終わり、帰り道にコンビニでトマトジュースを買い、喫煙所でタバコを吸った。


「あぁ、我慢した後のタバコはうまいな」


電子タバコの煙を空に吐き出すと、航空自衛隊の哨戒機がなぜか上空に飛んでいる。なぜこんな市街地に。そんは話、聞いてないよ。音はうるさいけど。

低空飛行の為か、騒音が私をまた苛立たせる。


「うっせえわ!」


するとまた笑い声と共に男性の声が聞こえてきた。


「その世界を残という」

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