告白は真夜中―天然の音色とともに―

いすみ 静江

心がぴょん

 南の方にあるネル国シロ地方は、雨季も中頃に差し掛かっていた。


「雨垂れの 向こうの声は 誰かしら」


 うさぎのラクールは、雨垂れに聴き惚れながら、短い詩を胸に綴った。

 彼女は、白地に茶の斑がある。

 鼻の片側に茶があることを気に掛けているが、それも可愛いと言ってくれたうさぎがいた。


「心がほっかほっかになりますねっと」


 彼女は、昨年、意地でも念話を習得した。

 どうしても、遠方の方と画像と通信をしたくて。


「ランプの花のまだ仄明るいものを。丸太で伐った机に向かって、石板も用意してっと」


 夜も深まった頃、勉強を始めた。

 そもそも、愛する人の地へ行く為に、受験勉強をするのだ。

 問題もブリテン島の言葉、回答もそれだから、先ずは語学力を鍛える。

 それから、数学も配点が高い。

 専門科目を一つは必須、二つは選ばなければならない。

 カリッ。

 石板が軋んだ。


「どの位、刻が経ったのか、熱中していて、分からなかったなっと。もう、三刻は進められたっと」


 さくさくと石板などを方付けた。

 いつもの時間になる。

 念話の時間だ。

 立ち上がって、手を広げる。


「うさうさうさー! うさらー! シャムレイさんの所に届け、この愛!」


 彼は、二つ年上の同じく白地に茶の斑があるハンサムくんだ。


「こんばんは。真夜中の念話コールをありがとう。俺だよ」


 頭の中にジンジンと声が響いて来る。

 胸の鼓動も早くなった。

 ふさっとした白い毛を手で撫で、心を労わる。


「シャムレイさん。声も素敵でドキドキします」


 そこへ、BGMが入った。

 ゲゲゲゲコゲコゲコ……。

 蛙の合唱だ。

 真夜中だから、仕方がない。


「いつも、豊な緑がある所が素敵だと思います」

「俺の所は田舎だよ。ホワイト地方は、いいよ。本当」


 蛙の合唱が続く中、会話はロマンティックに歩む。


「いいですよね……。私もお伺いしたいです」

「え? それって……」


 躊躇いの瞬間があった。

 それだけ、本気だと言うことだ。

 石板を膝に置き、のの字を書いていた。


「はい。お嫁に貰ってください。一生お仕えします」


 ゲコゲコゲコ……。

 蛙の声が寂しくも真夜中の念話に映り込む。


「同じうさぎだろう? お仕えするのはおかしいよ」

「仰る通りですね」


 ラクーンの念話は、一刻も持たない。

 長く話したいのは、山々だが。


「俺と一緒になるのであれば、俺達はパートナーだと思ってくれ」

「パートナー?」


 ゲコゲコ……。

 真夜中の合唱が休まろうとしていた。


「パートナーとなってくれるかい? 俺の生涯のパートナーに」

「勿体ないお言葉です……」


 ラクーンは、石板に一つ二つと涙を零した。

 蛙は、真夜中の縁を応援するかの如く、鳴き声が盛りを得る。


【了】

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告白は真夜中―天然の音色とともに― いすみ 静江 @uhi_cna

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