abyss:09 カツアゲキター!
目の前に現れた絵に描いたような風貌のチンピラたち。
スマホを見せ合う。つまりキャッシュレスになったことで現金を持ち歩かなくていい分、スマホにデジタルマネーとして変換されたものが入っている。
デジタルマネーだからスマホ間で送金できるのだ。
スマホ間で移動させるとどこの誰に送ったかバッチリ証拠が残るのでリスクしかない。スマホ間のカツアゲだけなら良心的で、証拠を残さないように送金後にスマホまで持って行かれるケースがある。
証拠が残らないと言ってもこれは強盗だから立派な犯罪。
「チッチッチッ、痛い目見たくなかったら大人しくついてこいよ、ぁあん!」
ゲームの街の中に立っているMPC役かと思うほどテンプレなセリフを吐く。
相手するのがめんどくさいなーとチンピラを避けて歩こうとしたら、顔を隠したまま抱きついた母さんの左手がビルとビルの隙間にある裏路地を指差した。
「あっち」
とだけ言う母さんの表情は抱きつかれている俺には見えない。母さんに言われた通り裏路地にズカズカ入っていった。
ティナも手を繋いでいたので遠慮なく裏路地に連れていった。
俺たち3人がズカズカと路地裏に入っていくのをみて
「え、そんなあっさりいいの?」
「ウヒョー話わっかるわー」
とチンピラたちは喜んであとを追うようについてきた。
「これは嫌な予感がするぜ…………」
とチンピラの中に一人だけ結末を予想しているのがいたが、時すでに遅し。
人気のない路地裏の奥まで入り、この辺でいいかなと俺は立ち止まった。
顔を伏せたままの母さんが
「監視カメラは?」
カメラのことを聞かれるのは予測していたので路地裏を歩きながら確認済み。
「どこもないよ」
と答えた。
スッと顔を上げた母さんは俺を拘束する腕を緩めてモゾモゾと地面に両足を下ろした。
スタスタとチンピラに歩いていく母さんの背中に俺は声を掛ける。
「一応聞くけど、手伝いいる?」
と笑っていう俺にちらりと振り向いて
「ティナちゃん守ってなさい」
ニヤリと笑い返された。
「およよよ!大人しくついてきてくれておにーさんたち嬉しいよー。早速スマホ・・・・
ほぎゃああああーーーーーー!!!!!」
先頭にいたリーダーぽいチンピラが御託を並べている間に目の前に立った母さんが問答無用で股間を蹴り上げ情けない悲鳴を上げた。
股間を押さえて膝から崩れ落ち、顔の高さが下がったところへ母さんの右左の素早い拳が叩き込まれ膝蹴りが顎に綺麗に入って崩れ落ちた。
『!?』
他のチンピラたちは反撃されるとは思っておらず、且つ一瞬の出来事に何をされたのか何が起きたのか状況が理解できていない。すでに二人目のターゲットに駆け寄りジャンプしていた母さんはチンピラの肩に上からの回転蹴りを食らわし地面に叩きつけている。
流石に3人目のチンピラは防衛本能から両手を顔の前で構えた状態で母さんに向かっていいく。
あれはボクサー崩れの動きかな。
シュッシュっシュとジャブを打つが顔だけを動かした母さんに全て見切られ避けられる。ボクサーは右フックを上・中・上と3発打ち込むが母さんは左腕を打撃箇所に合わせて全部ガード。
ボクサーが追い討ちの右アッパーを間髪入れずに打ち込む。
母さんは体を
そこを母さんが見逃すはずがなく左フックが右顔面に2発ヒット、相手が右手を引っ込めた時には左の肋骨にいいのを一発食らわしていた。この攻撃までの一連の流れで母さんは一切その場を動いてなく息ひとつ切らしていない。
ボクサーの母さんを見る目は
「手加減してあげたけど肋骨にヒビが入ったから動くと痛いわよ。大人しくすればこれ以上痛いことしないわよ~」
とウィンク
ボクサーは冷や汗を額に流しながら頭を何度も縦に振った。
残りのチンピラは大人しく両手を上げ降参した。
「聞きたいことがあるからこいつら集めなさい」
と母さんの指示で俺の仕事は倒れている大人3人のチンピラの足首をまとめて無造作に掴み母さんの前に引きずっていく。
流石に全員の意識は戻っているが股間を蹴られたやつだけは股間を押さえながらガクガク震えが止まらないでいた。
かわいそうに。
「母さんどうぞ」と俺の一言でチンピラ全員が驚いた声を上げた。
『母さん!?』
「おいまじかよ! 子供でかくね?」
「これで人妻!? 幼妻じゃん!」
「やべえ、なにこれ興奮してきた、エロすぎる!」
と変に
さっきまでの股間の痛みに震えていた男は違う意味で股間を押さえている。
パンッ!!!!!
チンピラが騒がしくなったので俺は両手を叩いて注意をこちらに向けさせた。
『さーせん』
と黙るチンピラたち。
なんか俺らの立場が悪役側になっている。
「あなたたち、さっきのレストランのトイレで私を襲ったやつらの仲間?」
母さんの唐突な質問に俺が自分の耳を一瞬疑った。
母さんがトイレで襲われていた!? トイレから出てきた母さんから一瞬ゾクっと感じた雰囲気は殺気立っていたからだったのだ。
母が無傷で出てきたから襲ってきた相手は大した手練れではなかっただろうが、母さんから逃げられたということは油断できない。
チンピラたちは何のことは分からずお互いの顔を見合わせてから首をふった。
「な、何のことだか、なぁ?」
「俺たち歩いてきたあんたらを見てお金持っていそうだからお小遣いもらおうぜって声かけただけだし」
「そうそうタカヤンが、もうすぐここを金持っているカップルが通るからやろうぜって言い出したんだよな」
「へぇ、タカヤンは何で私たちがここを通るって知ってたの?」
チンピラたちがタカやんと呼ばれている男に顔を向ける。
俺たちもタカヤンに視線が集中した男、タカヤンを見る。
チャラ男ファッションした降参した男のうちの一人だった。
みんなが見ると同時にタカヤンがその場から走って逃げ出す。
その先にはすでにティナが立ち塞がっていた。
ティナの様子は母さんの闘いにあてられて戦闘モードが入ってしまっていた。
並ばされたチンピラの後ろに立っていたティナは逃げ道を予測して行動していた。
ティナは両手を流れるようにスッと胸の前に構え、腰を落として戦闘態勢に入る。
「タカヤーン、トイレ~?」
と呑気に声をかけているが、構えには隙がない。
ティナを舐めて無策に飛びかかるタカヤン。
タカヤンの右腕を横にするりとかわし左手を右手で受け止めると同時に肘打ちを受け止めた左腕に打ち込みタカヤンの体制を崩す。受け止めていた右手でタカヤンの顔面に肘打ち、体を回転させ体重の乗った左肘をみぞおちに打ち込む。
タカヤンは前蹴りを繰り出すがティナに受け止められる。ティナの素早いローキックで内股の膝上を蹴られ重心を支えられなくなり地面に崩れる。
受け止められた足を持ち上げられ背中から地面に倒れるタカヤンの顎とみぞおちに間髪入れずに蹴り降ろされ悶えている暇もなく足を捻られてうつ伏せの体制にさせられタカヤンは戦意喪失した。
スムーズに流るように一瞬で制圧。
ティナさん、めちゃくちゃ強いじゃないですか!!!
重心移動がしっかりできているし実戦に慣れた動きだった。
正体不明の師匠とやらに実戦訓練で鍛えられたと言っていたが、ここまで実戦で通用するまで鍛えさせた師匠ががちょっと怖い。
ティナはニコっと笑って俺たちに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます