タンポポですよ?

Retisia

第1話 タンポポ大ピンチ。誰か助けていただけないでしょうか?





 ゆらゆらと揺れながら、大輪を咲かせたい。


 初めまして、タンポポです。

 いや~わたしくし、ついさっき発芽したばかりでして……ここどこだろう?


 我が母たる先代タンポポ氏は種族繁栄の為に私達を風に乗せて飛ばしましたが……何たる勝手なことでしょう。育児放棄にもほどがあるとは思いませんか?


 子供は大事に、の精神が足りてないと思いました!


 しかも最後の母の言葉が酷いのなんので「あ゛~、肩の荷おりた~」ですよ?

 完全な厄介払いで泣きそうです。泣けませんけど。


 まぁ、愚痴はこの位で現状の確認から始めましょうか。



「きれいなおはなだよ~」



 おっと今生の終わりが見えますね。

 お可愛らしい人間の少女が膝を抱えながら私をのぞき込んでいます。


 こら! スカートのままでしゃがんじゃいけませんよ!

 私、小さいので見えるんです。


 あっ、あっ~………………結構なお手前でした。


 大変興味深い体験でした。


 ん? 本当に植物か? なんで性欲があるのか?

 いえいえ、植物もちゃ~んと性欲はありますよ? 当然です、生き物ですから!


 昨今の若者はやれ植物は動物ではないとか、機械的に生きているとか仰っているようですが全くの誤解です。



 植物は、動物です。



 動いていないじゃないかとお思いのそこのあなた!

 残念、動いています。

 根を器用に動かして私たちは動くんですよ。

 ねっ? 動物でしょ?



「おはなさん~」



 むぅ、どうしましょうか。

 引っこ抜かれると私は死んでしまいます。


 神様、仏様、少女様。どうかそのままお見逃しくだいさませ。



「■■■、どうしたの?……あら、タンポポね」



 マザー来たああああああ!

 これは、いけるのでは?


 さあ、こんな汚いタンポポなんて見捨ててお家に帰るのです!



「もってかえる」

「ええ、いいわよ」



 いけないよ?

 タンポポいけないよ?


 ――終わった。

 さらば世界、さらば空、さらば真っ白は布。

 来世でも会いましょう。特に最後!


 こうして私は根元から引き千切られて、生涯を終えたのだった。





















 ――かに思えた数か月後。


 いや~、お騒がせしました。タンポポです。

 あの時は本当に終わりかと覚悟を決めていたことですが、見事、生還いたしました!


 全てはマザーのおかげでした。

 あの時、私は少女に茎の部分からブチっと逝かれるはずだったのですが、マザーから救世の言葉が入ったのです。



「育ててみない?」と。



 まぁ、神でしたよね。

 今ではマザーファミリーの一員として窓際で部屋を彩る毎日です。


 ああ、そうそう。

 この間ようやく少女の名前が聞き取れるようになったんです。


 フェンリちゃんというらしいです。可愛らしい名前ですよね、私は好きですよ。

 しかし何故名前だけが聞き取れなかったんでしょうね。他の言葉は聞き取れていたのに。

 …………ふぅ、気にしても仕方ないですね。保留で!


 今の生活に不便はありませんが、欲を言えば私は植木鉢よりも花壇に植えられた方がよかったことですね。

 いやね? 窓から見えるんですよ。なかなかに大きい花壇とそこに咲いている花々たちが。


 ……うん、妬みの気持ちしかないです。

 ふっ、私がそちらに移った暁にはその花壇を独占して枯らしてやりましょう!

 覚悟することですね!



「おはなおみず~」



 わあ~い、タンポポうれし~い。


 こうして毎日お水をもらえるのは野良にはない恩恵ですよ。それも麗しき幼女に!

 ここ、重要ですよ。


 ………さて、そろそろおふざけの時間は終わりです。

 どうやらここは日本どころか地球ではないようです。


 ただのタンポポがなぜそんなことをって?


 決まっています。

 タンポポの祖先が――転生者だからです。






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