第2話 死神
「はぁ……」
一人の男が大きなため息を吐いた。彼は捜査一課の刑事で、
「似たような事件だな……。これで三件目か」
現場の状況を見渡しながら、仁科が呟く。そう、これまでに同様の事件が二度起こっていた。
一件目も二件目も同様に鋭利な刃物で、舌を切り落とされていた。そして毎回のように匿名のメールが捜査一課へと届くのだ。"人が舌を切り取られて死んでいる”と。
「うっ……」
仁科の隣に居るのは新人刑事の
「行くぞ」
仁科の声に桜井は、「どちらに?」と聞き返す。
「聞き込みにだよ」
そう言うと、仁科はスタスタと部屋を出て行ってしまった。両手を口元に当てた状態でその後を桜井が追い掛ける。
* * * *
暗い部屋に一人の男が居る。時計は十時三十分になる所だ。部屋はカーテンが閉め切られていて、太陽の光が差し込んでくることはない。男はパソコンの画面を食い入るように見ていた。
「まだ情報は……ないか」
そう呟くと、男は両手で顔を覆い天を仰いだ。男は何かの情報を探しているようだが、目当ての情報は見つからなかったようだ。
男が見ていたのは【復讐代行】というサイト。掲示板には匿名で復讐を依頼する書き込みが多数寄せられていた。引き続き男は、パソコンの画面に視線を移しスクロールしていく。すると、一つの書き込みに目を止める。
「助けてください……このままじゃ、生きていけない」
掲示板にはそう書かれていた。男は掲示板の書き込み主にメッセージを送った。数分後、メッセージが届く。そのメッセージには、顔写真が添付されていた。
男はニヤリと笑みを浮かべ携帯を取り出すと、何処かに連絡を取り始めた。
* * * *
仁科たちはとある学校に来ていた。この学校は三件目の被害者、真中稔が通っていた高校である。彼の評判は良いようで、恨みを買うような人物ではない。
吐き気はもうないのかケロッとした表情で、桜井が仁科に尋ねる。
「この学校で何を聞くんですか?」
仁科は横目で桜井を見た後、大きなため息を吐き出し歩いて行ってしまった。「待ってくださいよ!」と叫びながら仁科の後を追う桜井なのであった。
応接室に通された二人はソファーに腰を下ろした。桜井はキョロキョロと落ち着きなく周りを見渡していた。仁科は肘で桜井を小突くと、「少しは落ち着け」と言った。その瞬間、応接室の扉が開き四十代位の男性が入ってきた。
「いや、お待たせして」
被害を受けた生徒の担任教師は、ソファーに腰を下ろし「今日はどのような御用件で?」と、仁科と桜井の顔を交互に見比べた。
「被害に遭った真中稔君のことについてお聞かせください。」
「彼はホントに良い生徒だったんですよ。成績も優秀で、皆言っていました。何故彼が被害に遭わなければいけないのかと……。被害にあうならあの問題児にしてくれれば良かったのに」
「あの問題児とは、誰のことですか?」
「斎藤ハジメです。彼は毎日のように問題を起こしていて、私らも手が付けられないでいるんです。恥ずかしながら……クラスでもいじめをしているようで、誰も止められないでいます」
仁科たちとは目を合わせずに、担任教師は額に浮かび上がった汗をハンカチで拭っている。
「我々はこれで」
ソファーから立ち上がり、二人は応接室を後にする。校舎の廊下を二人で歩いている時に、桜井が声を上げる。
「こんな進学校でもいじめって存在するんですね。僕が教師ならいじめなんて起こさせないのに」
桜井はフンと鼻を鳴らしながら言った。呆れた表情をしながら桜井の方を見て口を開いた。
「だったら、今からでも遅くはない。教員免許をとって教師になったらどうだ?」
仁科がそう言うと、桜井はキョトンとした顔で「何言ってるんですか?」と言っていたが、顔は引きつっていた。そんな下らない話しを二人がしていると、背後から声を掛けられる。二人が振り向くと、そこには不安な表情をした二人の生徒が立っていた。
「何かな?」
桜井が声を掛けると、二人は顔を見合わせると重い口を開いた。
「実は……真中君が死んだのって僕たちのせいかもしれないです」
「それはどういう……」
桜井が言葉を言い終わる前に、生徒の言葉で遮られる。
「復讐代行というサイト。その掲示板に書いたんだ……殺してほしいって」
「何故そんなことを書き込んだんだい?」
仁科が優しく問い掛けると、二人が声を揃えて答えた。
「実は……僕たちいじめに遭っていて。いじめを主導してやっていたのが真中君なんです」
「成程……だから掲示板に投稿したのか。そのサイトについても聞いていいかい?」
仁科がサイトについて、二人の生徒に聞いた。すると二人が知っていることを詳しく話し出した。サイトの掲示板には毎日匿名でメッセージが投稿されていること、そのほとんどが殺してほしい人がいるという内容だということ、そしてその依頼を実行しているのが【死神】と名乗っている人だということ。
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