第102話

【アサヒ視点】


 僕は停学になってしばらくの間学園に入る事を禁じられた。

 僕とヒメは結ばれる運命なんだ!


 僕は真の意味での勇者で、ヒメは聖女だ。

 僕とヒメが結ばれるのは当然なのになんで分からないんだ!


「まあいい。ヒメを手に入れるのは時間の問題だよ」


 僕は勇者騎士団の元へと向かった。


「やあ、帰ってきたよ」

「あ、お帰りなさいませ」


 ん?おかしい。

 皆からの僕への尊敬のまなざしが無くなっている。

 それに教会騎士団が何でここにいるんだ?


 ここは僕の拠点なのに。

 見た目の良い女は僕が可愛がる。


 もう誰を抱くかは決めているんだ。


「勇者アサヒ、いや、戦士アサヒよ。学園でヒメを犯そうとしたようだな?停学になったと聞いた」


 教会騎士団の男は、勇者騎士団に聞こえるように大きな声で言った。


「な、なんのことだい?」

「しらを切るならそれでもいいが、教会騎士団に色々情報が入っているのだ。

 同じ転移者であるカインを殺した件。

 パーティーの仲間を見殺しにして逃げた件。

 団員を犯そうとしている件。

 罪人になった件、様々な事が情報として入ってきている。


 そしてアサヒよ。

 女を壊して楽しむ趣味があるらしいな!

 常に媚薬を持ち歩いているようだが、ストレージの中を調べさせてもらいたい。

 教会まで同行してもらえるな?」


「誤解だ!付き合っていられない!僕はレベル上げで忙しいんだ!皆!僕のレベル上げを手伝うんだ!」


「残念だが、皆信心深いのだ。勇者騎士団の者は教会で取り調べを受ける事が決まっている。勇者騎士団を抜ける者は無罪となるだろうが、勇者騎士団に残る者は重い罪に問われる可能性がある」


「ぼ、僕は!レベルを上げるんだ!」

「嘘を見抜く魔道具での取り調べを拒否するか。それは罪を認める事と同じなのだがな?」


 僕は逃げるようにダンジョンに向かった。


 今僕はレベル1に戻っている。


 力が無いと簡単に殺されてしまうんだ。


 レベル、そう、レベルさえ上げれば何とかなるよ!


 ダンジョンの1階で簡単にレベルを上げられる。




「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 なんだなんだ!なんなんだああああ!

 何でラビットがあんなに速いんだ!

 ラビットはあんなに速くなかったはずだ!


 2体のラビットが僕を狙う。

 僕は刀を振って攻撃するけど、5回振ってやっとラビットを1体倒すことが出来た。


 でも残った1体は僕を殺そうと素早く動いて僕に傷をつけていく。


「うあああああああああ!」


 必死でラビットを倒した。


「はあ、はあ!おかしい、ラビットはこんなに速くなかったはずだ」


 おかしい、ハヤトと同じ強い刀の武器を装備したのに、うまくいかないのはおかしい。


 後ろから物音がする。


 アサルトブルか!


 僕は突撃に備えて構えた。


 おかしいおかしい!

 何でアサルトブルがいるんだい!?

 1階には出てこないはず!


 アサルトブルの角が光る。


 アサルトブルから風の刃が飛んできた!


「あぐおおおお!」


 魔法!


 何でこいつが魔法を使うんだい!

 僕は走って逃げだした。


 僕は震える手でポーションを飲む。


 おかしい!


 いないはずの魔物がいる。


 魔物の動きがおかしい。

 いつもと動きが違う。


 今度はチキンが現れた。


 チキンはくちばしに斧を咥えていた。

 その姿に不気味さを感じた。


 走って僕に近づき、斧で攻撃してきた。


 僕は何とか刀で攻撃を受け止める。


「なん、なんだ!」


 動きが読めない。


 僕は魔物を斬りながら逃げるようにダンジョンを出た。

 

「はあ、はあ、まさか、死にかける、なんて」


 そこには待ち構えるように教会騎士団の男が立っていた。


「一人でダンジョンに入ったのか。大きく変わったダンジョンにレベル1で飛び込むとは、無謀だな」


 そういえば、女神がダンジョンが変わると言っていた気がする。


「伝えておく。勇者騎士団は解散となった。お前に団長の資質は無い。それと団員にはお前の悪行の真実を話しておいた。全員が解散を受け入れた事で、お前の罪は不問としよう。慈悲深い教会に毎日感謝する事だな。はははははははははははははははははは」


「おかしい」

「むう?何がだ?」


「僕は勇者なんだ」

「お前はレベル1のただの戦士だ。いや、レベル2か。失礼したな」


 そう言って教会騎士団の男は鼻で笑った。


「ぼ、僕は選ばれた存在なんだ」

「何を夢のようなことを言っている?お前はただのならず者だ」


「ぼ、僕は扉を通る時【楽】の扉を選んだんだ」

「意味が分からんが、お前が選んで死に向かって行っただけだろう?変容したダンジョンにレベル1で一人飛び込む愚かな行いを改める事だな」


「僕はレベル100を超えていた」

「今までが幸運だったのだ。お前のような愚か者が生きてレベル100を超えられたのだ。奇跡のような幸運に守られていた。これからは自らの力で切り開いていくのだな」


 教会騎士団の男が去って行く。


 僕はベンチに座って呼吸を整えた。


 おかしい、僕は強い戦士を選んだ。


 更にハヤトと同じ強い刀を選んだ。


 強い武具を装備した!


 最初は簡単に魔物を倒せると思った。

 でも途中から気づいた。

 魔物の動きがおかしい。

 動きの癖がありすぎる。


 僕はまだレベル2。

 アーツスキルを使うMPが足りない。


 一人でレベル上げはきつい。




 アサヒは停学処分によって新しいダンジョンの攻略情報を得られぬまましばらく1人でレベル上げをした。


 アサヒは苦労してプレイヤースキルを上げつつあったが、アサヒの胸には女神への恨みが募るのみであった。












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