第101話

 大部屋にみんなが集まる。


 だが、一人知った顔がクラスメートから質問を受けていた。


「え?誰?」

「カムイだ」


「なんでいるの?」

「俺も、転生する事になった」


 間違いない、クサナギ・カムイ。

 ゲームの主人公だ。


 女神が現れ、3つの扉が現れる。


「今回も入る扉を選ぶことが出来ます。前回と同じで数日後の未来までしか分かりませんが、【苦行】の道を選べば苦しい思いをするでしょう。ですが、魂を鍛える為には苦しい道を通りなさい」



 カムイは迷わず苦しい道を選んで通っていった。

 さすが、迷いが無い。

 主人公っぽい。


「アサヒは楽な扉を通って文句を言っていた。苦行を選ぶか」

「何を言っているんだい?楽な道を通るに決まっているよ」


 アサヒは【楽】の扉をくぐって行った。

 結局そっちに行くのか。


 他の者は【普通】の扉を通っていく。


 残されたのは俺とヒメと、アオイだけ。


「俺は、試練を受けて苦行の道を進むと決まってるんだ。ここでお別れだな」

「私も、苦行の扉を通るよ」

「みんな普通の道を通っているだろ?」

「いいよ」


「アオイは?どうするんだ?」

「私は、最後に通るわ」

「そうか、ま、いつ通っても同じ時間、同じ場所に出るんだ。俺以外はな」


「ハヤト君、試練の事は、みんなに伝えておくね」

「助かる。俺は遅れていくからな」


 俺とヒメは手を繋いだ。


 そして、一緒に【苦行】の扉をくぐった。





 ハヤトはトレイン娘の事で頭がいっぱいになり大事な事を聞き忘れた。

 なぜゲームの世界に転移する事になったのか?

 なぜ1度転移し、能力値をリセットして転生するのか?

 それを知るのはハヤトが転生してからの事になる。





【ヒメ視点】


 まぶしい光に包まれて、目を開けると庭園に立っていた。

 転生したのは生き残ったハヤト君以外の全員。

 死んでしまったみんなは蘇らないのかな?


 松明の炎で周りが照らされ、ファルナ達が立っていた。


 日付を確認する。


【王国歴1000年春の月1日】


 アオイはそっとその場から離れようとする。


「どこに行くの?」

「ちょっと用事があるのよ」


 そう言ってアオイはその場から立ち去った。


 ファルナ達が私に抱きつく。


「ああ!無事に帰ってきましたのね!」

「僕たち皆心配したんだよ!」


「アオイはどうして離れて行ったのです?」

「分からないのよ」


「ハヤトさんはどこなのです?トレイン娘はどうなったのです?」

「全部、話すよ。ハヤトの試練の事、あった事全部を」



 ◇



「そういう事がありましたのね」

「僕たちはハヤトが来るまでに出来る事をやるしかないんだね」


「その前に、ここってどこかな?」

「は!失礼しましたわ。ここはダンジョン学園の庭園ですわ。ようこそ、ダンジョン学園へ」


 日の光が昇り、庭園が照らされる。

 転生した私達全員が、その時から学園生になった。


 その日私達は学園の案内と入園式を、寮生活の準備をしてその日を過ごした。





【王国歴1000年春の月2日】


 次の日も学園で過ごす。


 廊下を歩いていると、後ろから肩を掴まれた。

 アサヒの顔を見た瞬間、小さく悲鳴を上げた。


「久しぶりじゃないか。ヒメ、最近話していなかったよね」

「わ、私忙しいから」


 逃げようとすると腕を掴まれた。


「どこに行くんだい?学園生なのに忙しい用事かい?詳しく話を聞こうじゃないか」

「は、離して!」


「ようやく2人きりになれたんだ。もっと話をしようじゃないか」


 そう言ってアサヒは私の腰に手を回す。

 私のお尻と胸を物のように触った。


「ひい!」

「あの木の茂みに行こうか。良くしてあげるよ」

「誰かあ!助け!ふぐ!」


 犯される!


 口を塞がれて逃げられない!


「安心していいよ。媚薬と僕の技で良くしてあげるよ。1度体験したら僕無しではいられなくなるんだ」


 怖い!


 ハヤト君!


 助けて!


 その瞬間、アサヒは殴り飛ばされた。


「カムイ、君?」

「大丈夫か?」

「う、うん、ありがとう」


「ファルナの所まで送ろう」


 私は、ファルナの所まで送られて、その日から私に護衛がついた。

 そしてアサヒはしばらく学園を停学になった。




 その日の夜、学園の食堂で食事を摂る。

 スープとパン以外はビュッフェスタイルでおしゃれな雰囲気で護衛と一緒に食事を楽しむ。


 でも、人が倒れ始める。


 私はパンを落とした。


「あれ、手が、痺れる。体が、熱い」


 私は椅子から倒れ、護衛も地面に倒れて行った。


 ガラの悪い男が入って来る。


「へっへっへ、媚薬にこんなに簡単に引っかかるとはな」

「みんなちょろいぜ。おい!見ろよ!ヒメがいるぜ!」


「ひゅー!確かに噂通りの上玉だぜ」

「運んで楽しもうぜ」

「やめとけ!お頭に殺されるぞ!黙って運んでお頭に届けりゃいいんだよ!他の女で我慢しろ!」


 私は、薬を飲まされて、ドロドロの薬を体にもかけられて布袋に詰められた。

 途中で気を失う。




 私はベッドで目覚める。

 ファルナが私の手を握った。


「危ない所でしたわね。レベル1のままでは危険ですわ。明日の学園は休んで、クラスのみんなと一緒に合宿に行きますわよ」

「そう、だね。この世界は、怖い所。何度もハヤト君に守ってもらってたんだ」


「まだ、騎士団の数も質も法整備も治安維持も全部整っておりませんの。しばらくの間は苦労をかけますわ」


 ファルナが申し訳なさそうに私の顔を見る。

 ああ、私は【苦行】の道を、ハヤト君と一緒に選んだんだ。


 合宿が終わる頃に、ハヤト君に生きたまま会いたいな。

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