第64話

 俺の手が震え、皆が静寂の中俺を見守る。


 その静寂を打ち破るようにトレイン娘が俺に抱きついてくる。

 遅れてシスターちゃんとエリスも抱き着いてきた。


 俺は安堵して、体の力が抜ける。

 周りから歓声が聞こえる。


 俺はそれでも更に敵感知で周囲を警戒した。

 力が抜けても、俺の恐怖はまだ残っている。


「お疲れ様ですわ。今日はゆっくり休みましょう」

「そう、だな。今日は、疲れた」


 少し、体が熱い。


 過労になった時の感覚に近い。


 ……今日は、眠ろう。


「今日は、休む。皆、よく頑張ったな」


 俺は、風呂に入って、ぐっすり眠った。

 体の力が抜けると、すぐ眠りに落ちた。





【王国歴999年冬の月80日】


 窓が明るい。

 もう、昼か?


 大部屋が騒がしい。

 俺はぼーっとしながら大部屋を見に行く。


「なん、だ?」


 俺はその光景を見てすぐに覚醒する。

 教会騎士団!


 こいつらはスティンガーよりもっと後に出てくる敵だ!

 今の俺達では勝てないだろう。


 ファルナと教会騎士団が議論している。


「何度も言っているのだ。異端者のアオイを引き渡せ!女が女を好くなどあってはならん!すぐ火あぶりにかけるのだ」

「ま、待つのですわ!アオイはしばらく捕まっていましたの!まだ準備が出来ていませんのよ!」


「その事は斥候の調査済みだ。スティンガーの英雄騎士団だろう?だが、我らも暇ではない。それに、我らの目を欺くための時間稼ぎの偽装でないと、証明できるかね?」


「は!今ハヤトが起きましたわ」


 ファルナが俺に近づいてくる。

 嫌な予感がする。


「ハヤトがアオイを女にすればいいのですわ!ハヤトがアオイを奴隷にして女の喜びを分かって貰えれば、アオイは異端者ではありませんのよ!」


 嫌な予感が的中した。

 俺の寝首を掻くような人間を俺の元に置くって事だよな?

 怖すぎる。


 ……カイン、カインだ!

 カインにご主人様をやって貰おう。


「待ってくれ!カインとアオイは恋仲だ!カインにしてくれ!」


「むう?もしかして、まだ掴んでいないのか?」

「何の話ですの?」

「カインは、殺された」


「は?」

「殺されたのだ。勇者との喧嘩による、ただの些事にすぎんが、今の問題は異端者アオイだ」


 喧嘩の殺し合いがただの些事か?

 いや、元の世界でも、法が整っていなければ人を殺す事は普通にあった。

 決闘も普通にあった。

 感覚は俺達と大分違う!

 違うんだ!


 理解せず、そういう考えをする者だと思って向き合わなければ、話は出来ない!


「待て待て、本当に死んだんだよな?太ってて杖を持ってるカインだよな?」

「死んだのだ」

「アオイ、そう、アオイは何と言っている?本人の意思もあるだろう?」

「異端者の意思など関係ないのだ」


 駄目だ、話がかみ合わない。


「アオイを連れてきますわ」


 兵士がアオイを連れてくる。

 ポーションで傷は回復しても、失った血はすぐには元に戻らない。

 アオイは頬をぺちぺちされて目を覚ます。


「それは、異端者アオイを引き渡すと取って良いのか?」

「違いますわ。今ここで、奴隷契約を結びますわ!ハヤト、前へ」


「待て待て!そうだ!誰か他の者にしよう!」

「誰かとは誰の事だ?具体的にどこに住み、何をしている者なのだ?我らの時間を奪う気ではあるまいな?」


「それは、今から探して」

「話にならんな」


「異端、者?何の、事かしら?」

「女でありながら女を好くお前の事だ。異端者は火あぶりと相場は決まっているのだ」

「待つのですわ!ハヤト!すぐにアオイを奴隷にするのですわ!」


「ちょっと待ってくれ。カインが死んだのが、信じられない。あいつしぶといぞ。アオイはカインの奴隷にして欲しい」

「受け入れられんか、だが事実だ。死んだ者は主人にはなれん」


「カイン!カインは!カインは嫌よ!カインは駄目!」


 アオイが珍しく取り乱す。

 昨日の死闘の影響か、本調子ではないようだ。

 半分眠っているようで、思考が覚醒していない。


「火あぶりがお望みらしい」

「火あぶりも、嫌!いやよおおぉ!」


「ハヤト!!早くアオイを奴隷にするのです!」

「だから、誰か他の者を連れてこよう!ファルナ!王族なら誰かいるだろ!」

「わたくしに人脈はありませんわ!ハヤトしかいませんのよ!」


「落ち着けええええええい!」


 教会騎士団の喝で全員が黙る。


「我らは十分な時間を与えた。今この場でアオイを女にするか、異端者として火あぶりにされるか選ぶのだ。これ以上時間をかけるなら、王女と言えど異端者とみなす!」


「分かった。アオイ、俺に奴隷にされたくは無いだろ?アオイはプライドが高い。アオイの意思が大事だ」


「ま、待ちなさいよ!ハヤト!私が厄介だと思って私を見捨てる気ね!誘導するのはやめなさい!」

「ではどうしますの?ハヤトの奴隷になることを受け入れますの?」

「我らはアオイが火あぶりになっても一向に構わんのだ。むしろ時間が惜しい。異端者はまだまだいるのだ」


「……ハヤト、私を、奴隷に、しなさい」


「今ここで奴隷にするのだ。その丹田の紋章を奴隷の紋章に上書きし、魔力の源を完全に支配するまで、アオイは異端者だ」


「エリスとシスターちゃんを起こしますわ!早く!早く起こすのです!」


 ファルナが叫び、兵士が急いでエリスとシスターちゃんを呼んでくる。



 エリスがアオイのへその下に紋章のカードをかざす。

 シスターちゃんは簡易的な儀式の準備を素早く始める。


「それでは始めるのです。アオイ、あなたはいつ、いかなる時も、ハヤトの下僕として、心も体も捧げ、女の喜びを味わい、女として生きる事を誓いますか?」


「……はい」


 アオイは顔をしかめた。


「ハヤト、あなたはアオイを下僕にして、徹底的に女の喜びを分からせる事を誓いますか?」


「……はい」


 俺も顔をしかめた。


 アオイの丹田の紋章が奴隷の紋章に変わり、光を放った。

 呪いの紋章が刻まれ、定着する。


 教会騎士団が拍手をする。


「うむ、規模は小さいが、素晴らしい儀式だった。女神エロスティアへの信仰心は分かった。だが、その紋章はまだ奴隷LV1にすぎん」


「分かっていますわ。ハヤトがアオイを分からせ、異端者ではなく女に生まれ変わらせます。ハヤトがすぐに奴隷LV10に仕上げますわ。これでアオイは救われます」


「分かっているならいい。定期的に使者を送る。だがもし、分からせ足りないと判断すれば、アオイは火あぶりだ」

「心得ておりますわ」


 教会騎士団が帰っていく。


 重い空気を感じる。

 俺は無言でダンジョンにエスケイプしようとした。


「お!お待ちなさい!」


 その後、俺は食事中ずっとファルナの分からせ帝王学の講習を受けた。


 それが終わるとシスターちゃんから分からせ信仰のありがたい話を聞いた。


 更にそれが終わると、皆に囲まれて、この世界の常識を何度も説かれる。


 俺の隣で一緒に講習を受けたアオイも、うんざりしたような顔を浮かべる。


 こいつら、ファルナが疲れるとシスターちゃんが話を始めて、それが終わるとエリスとトレイン娘や兵士が話を始める。

 その内、休憩を終えたファルナとシスターちゃんが復活して戻ってきて話が終わらない。


 昼食中も夕食中も話が終わらず、夜になった。


「さて、そろそろいい時間になりましたわね。ハヤトはアオイを分からせる時間ですわ」


 シスターちゃんとトレイン娘が前に出る。


「私がきちんと教えを全うさせるのです。それが女神のご意志」

「私もアオイを死なせないようにしっかり指導しますよ!」


 エリスも前に出る。


「エリスもか!エリスだけは出てこないと思っていた!」

「ち、違うんだよ、そ、そのね、体が、熱くて、その、して、欲しいんだ。ごめんね、でも、ずっと我慢してて、もう、無理なんだよ」


 エリスか!

 俺の体は熱くなり、息が乱れる。

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