第63話

 俺はスケルトンを出しつつ、英雄騎士団と闘った。

 カインが走って逃げたおかげで、英雄騎士団の数は減っていた。

 

 10名ほどこちらより少なかったが、レベルは向こうの兵の方が高い。

 だが、いける!


「シャドーバインド!」


 乱戦になった状態で敵を一瞬だけ拘束する。

 俺の中距離範囲内に居る英雄騎士団は一瞬だけ動きを拘束された。

 それによってファルナの兵やトレイン娘たちが英雄騎士団を倒していく。


 マジックポーションを飲んでまたシャドーバインドを使う。

 これで兵同士の勝ちは確定した。


 英雄騎士団の数は半分になり、後は一気に押し切れるだろう。


 エリスは、右の膝を上げて太ももの横の紋章に手を当てた。

 その瞬間紋章銃が出現し、英雄騎士団を攻撃する。

 エリスの紋章銃スキルだ。

 今まで出番がなかった紋章銃だが、今は活躍している。

 

 ヒメは10体のポーションスライムで1人を取り囲み攻撃した。


「スティング!クロスファング!」


 シスターちゃんは何度もヒールでみんなを癒し続けた。


 トレイン娘も順調に戦い、敵を倒す。


 ファルナは白い丈の短いドレスを装備しており、剣を構えつつ、兵の指示を出す。


 あと少し!

 あと少しで団員を全滅させられる!





【アオイ視点】


「ははははは!我に女にしてもらう為わざわざ来たか!」

「黙りなさい!」


「異常解除のポーションを飲んでも体がうずくだろう?んん?どうした?」

「く!殺す!」


「ははははは!手が震えているではないか!女にしてもらいたくてたまらないのだろう!」


「ソニックタイム!ロングスティング!ショートスティング!」


 ソニックタイムは一定時間速度を速めるスキルだ。

 私の体が輝く。


 そして、ロングスティングとショートスティングを連続で使うのが槍のコンボとなる。


「そこだ、ショートスティング!ロングスティング!」


 私とスティンガーの攻撃で火花が散る。


「読みやすい!我は槍使いだ!お前の動きは読みやすい!」

「それは私もよ!」


 お互いに通常攻撃を繰り出す。

 攻撃が相殺し、何度も火花が散る。


「分かるだろう?我とアオイの実力差が!我はソニックタイムを使わず、互角に打ち合っている!」


 攻撃後、お互いがバックステップを踏んで後ろに下がる。

 その瞬間私は投てきスキルで槍を投げた。


「ぐう!」


 槍がスティンガーの腕にヒットする。

「私の方が上手のようね」

「かすり傷だ」


「ロングスティング!ショートスティング!」

「ロングスティング!ショートスティング!」


 攻撃が相殺し合い、中々お互いにダメージを与えられない。

 通常攻撃を打ち合う。


 ガキンガキンガキン!

 鉄の撃ち合う音が大きく響く。


「そろそろソニックタイムの効果が消えるか」


 スティンガーは口角を釣り上げた。


「我はソニックタイム無しでアオイと互角に打ち合った。だが、アオイのソニックタイムが消え、我がソニックタイムを使えば、どうなるかは分かるだろう?ふははははは!やはりか!我に女にして欲しくてたまらんのだろう!実に良い!我がまた、初物を味合うように二度楽しめる!」


「ふざけないで!」

「お前を捕えて夜もあの部屋で突き刺す!ソニックタイム!」


 私は3回の通常攻撃を受け、体勢を崩す。


「そこだ!お前は懇願し、女にしてもらうために居るのだ!」


 私は、連撃を受けて後ろに下がる。

 下がった瞬間に槍を投てきする。


「それはもう効かん!」

 

 投てきした槍が弾かれる。


「く、殺す!」

「実に良い!お前は極上のメスだ!」


 私はスティンガーに突かれて、意識を失った。





【カイン視点】


 アオイとスティンガーが戦っている。

 スティンガーの後ろに回り込もう。

 僕の連撃を食らわせてやる。




 スティンガーがアオイを倒す瞬間に隙が出来た。


「ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ふー!ふー!ふひー!!」


 マジックポーションを飲む。

 飲みすぎて頭が痛くなる。

 でも、5発は当てた。


 途中から煙が舞って見えなくなったけど、手ごたえありだね。

 アオイは僕のハーレム要員だよ。

 寝取るのは反則だ!


「ぐおおおおおおおおお!豚がああああ!!!殺すううぅう!!」

「う、うひいい!!!い、生きているのかああ!!」


 僕は必至で逃げた。

 スティンガーが血を流し、焦げながら襲って来る。



 それからの記憶はあまりない。

 何度も後ろにファイアを撃った気がする。





【ハヤト視点】


 俺達は団員を全滅させた。


「アオイさん!大丈夫ですの!ポーションを飲むのですわ!」


 アオイが倒れている!

 アオイがスティンガーにやられた!


 いや、さっきカインがファイアを連射していた!

 まだ2強の内カインは健在だ!

 カインがスティンガーを倒せばすべて終わりだ!

 

 歓声が聞こえる。

 スティンガー以外は全滅させた。


「カインとスティンガーはどこに行った?」


「戻ってきましたよ!」


「ぶふーーーーーーーー!!!」

「殺すーーソニックタイムううう!ロングスティング!ショートスティング!!」


 カインは攻撃を受けた瞬間に下段に構えた杖からファイアでスティンガーに直撃を与えていた。

 うまい!

 だが、尻から炎を出すスカンクのようにも見える。

 このまま倒せるか?


「み、皆で僕を助けろーーーー!!!は、早くしろおおおおおおおおおお!」


 カインは逃げながらスティンガーにチクチク刺されている。

 致命傷は受けていないが危ない状態だ!

 カインのMPはもう、切れかけている!


 俺は、スティンガーが怖い。

 アオイが負け、カインが倒れようとしている。

 

 俺しかいない。

 俺しか、まともに戦える者は居ないんだ!

 行くしかない!行くしかない!行かないと!


 スティンガーが弱った今しか勝機は無い!


 俺は刀を構える。

 少し、手が震える。


 スティンガーがカインに攻撃をヒットさせた瞬間俺は後ろから飛び出してスティンガーの背中を斬りつける。


「ぐあ!貴様あああ!殺す!」


 カインは斜面を転がりながら落ちていった。


 俺とスティンガーが武器を構えて睨み合う。


「カインを追わなくていいのか?」

「豚の事か?あいつはしばらく動けん。お前を殺してからじっくり焼き豚にする!」


「お、お前の兵はもう居ない!降参しろ!」

「何を怯えながら言っている!お前は勘違いしている!我あっての英雄騎士団だ!我が居れば何度でも蘇る!我はここに居る全員を簡単に倒せる力を持っている!」


 スティンガーの迫力にひるみ、皆前に出ることが出来ない。

 攻撃したら即殺されるイメージが頭に浮かぶ。

 恐らくみんなも同じだ。


「カースウォー!月光!」


 俺は、殴り魔コンボを一気に使う!


「貴様!話をきけええい!」


 俺の体から闇と光のオーラが出て混ざり合うように光る。


「三日月!月光!」


 三日月でスティンガーのガードを突破してダメージを与える。

 更にスティンガーに向かい走って斬月を決めた。


 ソニックタイムのクールタイムが終わるまで待つわけがないだろう?

 力を使わせる前に速攻で倒すのが戦いのコツだ。

 お前が強いのは分かっている!

 全力で一気に倒すしか俺に道は残されていない!


 このカースウォーが切れてもスティンガーを倒せなければ、俺は、殺される。

 俺が死ぬイメージを拭えない。


 時間がゆっくり流れる。


 辺りの色が無くなる。


 俺は、ただ、スティンガーだけを見つめた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 俺は連撃を繰り出し、スティンガーの攻撃をカウンターで返し、ステップで翻弄し続けた。


 クールタイムが終わった!


「三日月!斬月!」


 スティンガーに十字の大きな傷がつく。





【スティンガー視点】


 何なのだあの闇魔導士は?

 最初は馬鹿にしていた。


 肩の後ろに小動物を乗せている。

 戦う気があるとは思えん!

 しかも、狂人しか使わぬカースウォーを使った。

 そのスキルをLV10にしたとて代償が大きすぎる。

 

 そのスキルをまともに使うなら、すべての刀スキルと呪い耐性を完全に取った後の話になる。

 いや、完全に取っていたとしても、1分で効果が切れ、必ず呪いが蓄積する。

 あのスキルは火事場の馬鹿力にすぎん。

 効果が切れれば、大量のMPを消費し、呪いを受けたただの的にしかならん。


 1分凌ぐだけで我の勝ちだ!

 そう思っていた。


 だが奴は何だ?

 敏捷が高いのか!

 いや、それだけならまだ何とかなる。


 だが奴の動きは何だ?

 我のフェイントが通じん!

 我の突きが通じん!

 我の攻撃を読まれている!


 敏捷は確かに高いがそれ以外は大した能力値ではない!

 それだけなら1分凌げた!

 だが奴の動きはおかしい!


 常に最適解を選ぶように攻撃を読まれる!

 先読みするようにこちらの攻撃を躱し、避けられないタイミングで放った我の突きにはすべてカウンターが返って来る。

 すべてカウンターとステップで返され、避けられるのだ!


 我がステップを踏めば我に張り付くように動き、刀の攻撃範囲から逃れることも出来ん!

 そして必ず攻撃はカウンターで返される。

 こちらがカウンターを決めても、あちらのカウンターが発動し、攻撃を相殺される。

 常に我がされたくない最悪の攻撃を何度も繰り返してくる。

 まさに百戦錬磨!


 奴は我の必中の手を何度も払いのける!

 まるで死神が味方に付いているように奴は死から遠ざかっていく。


 それだけではない。

 あいつは、強者でありながら弱者の強さを併せ持っている!

 普通なら強者は慢心する!

 

 だが奴は、ネコに追い詰められたネズミのように、どんなことをしてでも生き残ろうともがく。

 

 あれだけの強大な力を持ち、それでもなお、まったく慢心せず、油断しない!

 追い詰められたネズミのような心のままに強者の力で全力でもがく!


 奴は矛盾している!

 普通ではない!

 勝てぬ!


 奴がカースウォーを使えねば勝てたか?

 我が万全なら勝てたか?

 いや、それでも勝てないかもしれん。

 奴は普通ではない!


 刀の連続アーツが我を十字に切り裂く。


 もう……我は終わりだ。

 せめて、相打ちに!


 槍を突き刺そうとする。


 だがそれすら見切られ、奴は攻撃をやめない。

 何度も刀で斬りつけてくる!


 奴は異常だ!


 奴は強い。

 アオイより、豚より強い。

 それでいて奴は自分の死を常にイメージしている。

 そしてそのイメージを全て潰すように最適な動きを無数に選び、動きを潰しても違う選択をし続ける。

 我の攻撃を躱し、カウンターを決め、我がされたくないと思う最悪の動きを選び続けている。

 

 我に飛び込むことで、生きようとしている!

 恐怖から生まれた化け物、いや、死を遠ざける死神が味方に付いている!


 違うな、奴は、


 奴は、死神そのものだ。


 敵に回してはいけなかった。


 奴とは、最初から対峙するべきではなかった。


 ハヤトの雄たけびを聞き、連続攻撃を受けながら、スティンガーの命は消えていく。





【ハヤト視点】


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 スティンガーに連撃を叩きこむ。

 スティンガーが木に寄りかかり動かなくなるが、それでも連撃をやめない。


 後ろの大木が俺の攻撃で何度も轟音を放つ。


 スティンガーの後ろの大木と同時にスティンガーが倒れていく。

 俺は更に倒れるスティンガーに刀を突きさす。

 俺は、スティンガーが怖い。


 何度も刀を突きさす。


「うああああああああああ!」


 何度も攻撃を続ける。


 攻撃をやめると、スティンガーは肉の塊になっていた。


「はあ、はあ、はあ、はあ、俺は、生きて、いる?」


 俺は、戦いながら、スティンガーに突き殺されるイメージが消えなかった。

 何度も何度も最悪のパターンをイメージした。

 ただ、必死で最悪のパターンを避け、もがくように必死で攻撃した。


 スティンガーが死んでも、俺の手は、震えていた。

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