第20話

 うさぎ亭の大部屋か。


「ハヤト君と一緒の部屋で生活するの?」

「大部屋だとそうなりますよ?」


「う~ん、でも」


 ヒメは優柔不断だ。

 押し通せば意見を通せる事もあるのだ。


「ヒメ、うさぎ亭は人通りが少ない。うさぎ亭を見てから決めよう」

「そうだね、うん。そうする」


 こうやってなし崩し的にヒメと同棲できますように。

 俺は心から女神に祈った。


「エリスはどう思う?」

「宿代はいくらかな?」


「シーツの洗濯やお風呂混み食事なしで3人1日5000魔石です!」

「エリス、見に行ってみよう。エリスのお金が苦しいのは何となく分かっている。見るだけ見よう」


 エリスの顔が赤らんだ。


「ありがとう、でも少し考えるよ」


 エリスが好感度MAXの顔してる!

 目がとろんとして、いや、温泉だからそう見えるだけかもしれない。

 いや、エクスファックの状態異常がまだ残っている可能性もある。


「熱くなってきたよ。僕はもう上がるね」

「私も、熱くなっちゃった。ハヤト君、あっち向いてて」


「湯気で見えないだろ」

「そうかもだけど、あっち向いてて!!」


 ヒメは後ろから抱き着くようにして俺の方向転換をする。

 ヒメの胸や腕が俺の体に当たるが、それはいいのか?


 見られるのは駄目だけど触るのはいいって事か!

 触っていいのか!!


 ……いや、俺が触ったら怒るだろう。

 自然にヒメから触って貰えるシチュエーションを検討する必要がある。


「私後2時間は入れますよ」

「俺も温泉は長く入る派だが」


 言いかけた所でトレイン娘が俺の手を握った。

 湯船の中で手はみんなから見えない。


「トレイン娘だけじゃなく、ハヤトも長風呂なんだね」

「2時間も待つのは厳しいよ」

「僕がヒメをハヤトの部屋に案内するよ。ハヤト、それでいいかな?」


「ああ、頼む」


 俺は2人を背中で見送った。


「さて、ハヤトさん、ここからは声を抑えましょう」


 トレイン娘は声を抑えて俺の腕に絡みつく。

 耳元でささやく。

 トレイン娘がいつもより魅力的に感じる。

 エクスファックの状態異常、なのか?


「どうした?」

「大部屋に住んでくれたら、エリスやヒメと一緒に暮らせますね」


「そうだな、夢のようだ」

「更に、ダンジョンの2階に上がる前まででいいので、うさぎ肉を出来るだけ売ってほしいです。そうすれば私のミスでうっかり何かしちゃってエチエチな目に会うかもしれませんよ?」


「なん、だと!」

「私長風呂なんです。ここで色々ゆっくり作戦会議をしても、2人にはばれません。私がうっかりしちゃっても2人はこの子はしょうがないで許してくれます」


「策士よのお」

「うっかりさんなだけじゃありませんよ」


「助かる。ぜひ乗ろう」

「ハヤトさんはエリスもヒメも大好きですよね?」

「……そうだな」


「所で、この温泉のトイレって個室で大きくてすごくきれいなんです」

「ん?」


「私達長風呂なので2時間は遅く帰っても大丈夫ですよね?」

「そうだな」


「私危なっかしいので魔物の繁殖道具にならないように避妊の紋章を付けているんです」

「んん?」


「個室のトイレは川の音が大きくて、大きい音を出しちゃっても大丈夫です。しかも空いています」

「そう、なんだな」


「ハヤトさんは、エリスとヒメの事は好きだと思いますが、私の事も可愛いとは思いますよね?」

「そ、そうだな」


「私って大事な事だけは口が堅いんですよ。どうでも良い事は言っちゃうかもですが、秘密は守ります。今日の事は2人の秘密です。個室のトイレに2人で行きませんか?すごくきれいで大きさも十分です。大きい音を出しちゃっても大丈夫です。人はあまり来ませんし、カギがかかっていれば人は入ってきません。私は避妊の紋章を付けていますし大事な事は秘密にします」


 ここまで言われたらトレイン娘の言いたい事は分かる。


「いいのか?」

「女の子は好きじゃない人と裸の付き合いはしません」


 そう言うと腕に抱きついていた体を俺の体に密着させた。

 トレイン娘が真剣な顔をしている。

 明らかにいつもと雰囲気が違うのだ。


 いつもと違い、声を抑えたトレイン娘は、声だけじゃなく、表情まで魅力的に見えた。

 上目遣いで、怯える様な切ない様な表情を俺に向ける。


「ここまで言って断られたら私でも傷つきますよ?」

「行こう」


 俺とトレイン娘は湯気の中に消えた。





「温泉のトイレなのにきれいで広い」

「ここを知らない人も居るんですよ。湯気の向こうにあるのも目立たなくてポイントが高いです」


 俺は装備をまとったトレイン娘を見た。


 濡れたままの髪を紋章防具の髪留めがサイドテールに結って清楚な印象を醸し出す。

 瞳は赤く、目がウルウルしている。

 温泉上がりのせいか顔が赤く、特に唇は化粧をしたように色づき際立つ。

 少し細身だが、その割に胸は大きく形がいい。

 上半身に比べて下半身の肉付きが良く、くびれがある。

 肌は温泉の効果もあってかきめが細かく、俺に抱きついた時の感触はもちもちで柔らかかった。




 トレイン娘が装備を解除した。




 ◇




「はあ、はあ、あ、ありがとうございます。私は女になりました。すごいん、ですね」

「こちらこそ」


 それしか言えなかった。

 賢者モードだ。


「さあ、温泉に入って帰りましょう」

「どのくらいの時間が経ったんだ?」

 

 トレイン娘は日の位置を確認する。


「……長居させちゃいました。ちょっと言い訳を考えましょう」


 俺とトレイン娘は温泉に入って作戦会議を始める。


「そう言えば、名前は?トレイン娘じゃなくてサミ何とかなんだろ?」

「駄目ですよ!」

「ん?」


「私はただのトレイン娘です。これからもずっとですよ。いつも通りです。ハヤトさんはすぐ顔に出ますし私を名前で呼んじゃったら、そこからばれるかもです」

「そ、そうか」

「作戦会議が終わったら帰りましょう」


 こうして作戦会議をして俺とトレイン娘はうさぎ亭に帰った。




 エリスとヒメが出迎えた。

 大部屋で話をする。


「遅かったね。温泉は気に入ったかな?」

「すごいね、こんなに長く温泉に入る人は初めて見たかも」

「実は、私の話が右に左に行って、その後はしゃいで、どっちが後に出るか競走したんですよ。その後私がのぼせてハヤトさんに運んでもらいました」


 『どっちが後に出るか』の言葉を聞くだけでドキドキしてしまう。


 俺がトレイン娘を風呂から運んだ設定だ。

 これなら顔に出てしまう俺でも、裸のトレイン娘を運んで恥ずかしくなったで済ませられる。


「トレイン娘は相変わらずだね」

「この子なら、やりそうだよ」

「ハヤトさん、裸の私を運んだくらいで恥ずかしがってたら駄目ですよ!」

「そう、だな」


「トレイン娘が迷惑をかけたね」

「いや、楽しかったぞ」

 

 そう、とてもよかった。

 よかったのだ。


「ハヤトさんは温泉がお気に入りなんです。また皆で行きましょう!」


「わ、私はいいよ」

「僕も、お金に余裕が出るまでは頻繁には行かないよ」


「残念ですね。温泉フレンド・・・・・・はハヤトさんだけですか」


 凄いな。

 まったく疑われず、また俺とトレイン娘が温泉に行く流れに持って行った。

 しかも『温泉フレンド』の言葉で色々妄想してしまう。


「ハヤトさん、またイキ・・ましょうね」

「そうだな」

「ハヤトさんとは温泉でもダンジョンでも長いツキ・・合いになりますね!」


 俺はトレイン娘の話を聞いて色々妄想してしまった。

 トレイン娘の普通の会話がエチエチに感じる。


『ダンジョンでもしちゃいましょうね』に聞こえる俺がエロいのか?

 俺のエロ妄想で聞き違えたのか?










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