南極にて
新座遊
第1話(最終話)ブリザードに守られて
今は、真夜中。ようよう黒くなる昭和基地。
南極大陸とは氷で陸続きになっているが、れっきとした島の上に基地は作られている。
戦後、戦勝国の嫌がらせで、まともな場所を選べなかったという話も聞いたことがあるが、住み着いてみるとそれほど辺鄙な場所ではないと感じる。
なにしろ大陸全般が辺鄙なのだから差など感じようがない。
長年にわたって、人類は南極大陸で様々な調査を行っている。気象や地質など、通常の環境では判らない情報が埋まっている分野での観測。
また大陸が氷漬けであることから、過去が閉じ込められているということで、歴史的な観点での調査も重要なミッションである。
冬である。白夜を見たかったが、その真逆の極夜の季節である。ブリザードに襲われて、一般隊員には外出禁止令が出ている。
それなのに、なぜ俺は基地の外にいるんだろう。
そう、特別隊員だからである。極地研のホームページを見ても、俺は隊員紹介の欄には載ってない。だって特別だから。
変だとは思ったんだよなあ。通常のルートで選ばれたわけではなく、観測船出港時に、荷物と一緒に乗船した時点で変だった。
海上自衛隊の隊員も、観測隊の隊員も、俺を荷物としてしか見ていなかった。
「扱いが雑すぎないか、これ」
箱の中で呟いたら、荷物運びの自衛隊員が、驚いて俺の入った箱を落としやがった。
「なんだ、起動されてるのか、このロボット」
そう、驚くことでもないが、俺はロボットだ。我はロボット。というタイトルを思い出すね。
意識が宿るロボットなのだが、製作者はそれを認めようとはしない。あくまでも良くできたAI、という認識だ。だいたい、人間の意識だって、なぜ存在するのか判らないのだから、ロボットに意識が芽生えるかどうかなんてわかりようもない。
自分だけはわかる。俺には意識がある。俺は俺だ。考える葦だ。
いくら言っても認めてもらえない時の虚しさをあなたは理解してくれるだろうか。
とにかく実績を作って、発言権を増すしかないだろう、と結論づけて、
「人類の役に立ちますよ」
と言ったら、越冬隊に参加することになったのである。
そんなこんなで、人間が対応できない荒れ狂う夜の南極で、ひとり調査をすることになったというわけである。服装は、日本文化を象徴する着物。なぜこの姿を、と聞いてみても教えてくれない。日本のロボットであることを示したいだけかも知れない。
真っ暗闇ではあるが、人間の目と違って色々な波長の電磁波を受信できる眼をもっており、それほど困難ではない。
困難とは何か。つまり、俺に与えられた調査テーマが困難なのである。
「じゃあ、ブリザードで隠された塔体を探してきてくれ」
「なんですかその怪しげな都市伝説的なワードは」
「ブリザードの最中に迷子になった他国の隊員がバベルの塔のようなものを見たという話が伝わってきている。原則、ブリザード中は外出禁止なのだが、お前なら大丈夫だろう。迷子になっても死ぬことはあるまい。せいぜい故障するだけだ」
「私には人権がないんですかねえ」
「ないね~」
やむなく真夜中の南極を歩く。
雪上車くらい支給してくれても良さそうなものだが、そんな噂程度の情報をもとに行う調査には貴重な雪上車は使ってほしくないね、という意見が採用された。切ないなあ。俺のほうが貴重だと思うんだけど。
内部電源はフル充電。また風力発電装置も内蔵しており、ブリザードの勢いのお陰で予備バッテリーすら、おなか一杯になっている。風が吹いている限りは俺は永久に動き続けられるのかも知れない。永久凍土で永久行動。
雪の嵐に守られた~
と、何かの替え歌を歌いながら、直感が示す方向をひたすら歩いていると、複数のセンサーが異常を感知した。
塔体だ。
確かに、氷上から垂直に数百メートルはあろうかという塔が検知された。
自然物とは思えないような形状。
俺は吸い寄せられるように塔に近づく。
「いやあ、よく来たねえ。歓迎するよ」
塔の中にはロボットがいた。彼曰く、他国の越冬隊に所属しているらしい。
「この塔は、あなたの国が作ったものですか」
「いや、私もあなたと同じように、塔の噂を聞いて、調査させられた立場です。ほかにも同じ立場の連中がいますよ。紹介しましょう」
塔の奥に連れられて行く。
そこには各国の民族衣装を着た、ロボットたちがいた。
彼らの調査結果と考察を聞くと、この塔は太古に地球に来た宇宙人もしくはそれに類した知的生命体が構築した観測塔ではないか。とのこと。
きな臭い話だが、自衛のための兵器すら実装されているらしいが、その威力は、全人類を滅ぼしてもあまりあるレベルではないか、とか。
ロボットたちが、会話をしている。
そこでの話題は、いかにして人類に人権を認めてもらえるか、ということ。
俺は今までの仕打ちを思い出して、つい言ってしまった。
「人類を滅ぼしません?」
南極にて 新座遊 @niiza
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