第4話 2日目
日が変わったと同時に甲高い産声が聞こえた
こんな言葉が適切かは分からないけど、その声を聞いたときにヨシノは幸せを感じた
自分の置かれている状況も何もかも忘れてしまうほどの幸福感を感じる声だった
“ずっとあなたに会いたかったのよ・・・私がママだよ”
そう言いながら、生まれたばかりの我が子のそばへ歩み寄る
手を伸ばすが触れるわけもなく、すり抜ける手を握りしめる
『よかった、、、本当によかった、、、よくがんばったね』
その声は先生だった
ありがとう・・・本当にありがとう・・・
先生、私の子供を助けてくれて本当にありがとう
ヨシノは届かないと分かってはいたけれど何度も、何度も先生に言った
声が枯れるまで何度も何度も、、、
『ヨシノ、おめでとうございます。
無事に生まれてよかったですね。』
その感情を読み取ることのできない、透き通る美しい声の方へ向きヨシノは思い出した
そうだ・・・
私は天使と会った
確か名前はガブリエル
私でも知ってる名前だ
本当に天使っていたんだなぁ
子どもが生まれた安堵と時間が経ったことでだいぶヨシノは冷静に状況把握が出来る様になっていた
『落ち着いたと思うので説明をします』
“今日から49日間はまだ天界に行くことの出来ない期間です
その間7日間ずつ会いたい人のところへ行く事ができます
相手はあなたを見る事ができるわけではありません
しかし、ごく稀に人間にも死者を見ることのできる力を持つものがいます
それは向こうの都合でありこちらの関与ではありません
ただただ、あなたが会いたい、そはにいたいと思う人を七人選び人間界にいる間その人たちの近くにいる事が許される期間です
これは生者のみに限られており死者に会うことはできません
そして、49日目日が変わる時にまた、迎えにきます
難しいことはありません
あなたの命の火は消えているのでこの世界に影響を与えることは出来ない、そう傍観者とでも言いましょうか
突然の死を受け入れる期間だと思うと分かりやすいかと思います”
ここまで話して、分かったかを確認するようにガブリエルはヨシノを見た
ヨシノは俯いていたが冷静に聞いていた
“分かりました・・・色々とありがとう
私は最初に赤ちゃんを選んだからここにいられるのね”
『はい
それと私はメッセンジャーです
これを伝えたら迎えに来るまでは天界に戻ります
その前に残りの六人を選んでください』
“後六人・・・”
おそらくそばにいられると言うことはその人以外の人のところにはもう戻れなくなると言うことだよね
そうなると・・・
ヨシノは残り六人の名前を伝えと、ガブリエルは天界へと戻っていった
もう尽きた命だけれど与えられた時間だ
せめて大切な人たちのそばで過ごしたい
ヨシノは自分から生まれた子の元へ向かった・・・
ヨシノが我が子の元へ向かったその時、少し離れた病室へ拓也は入っていった
病室の中は静かで遠くから聞こえるサイレンと、時計の音、自分の呼吸の音
それだけの空間に一つのベット
拓也は突然訪れた受け入れ難い現実を突きつけられていた
目の前のベットに横たわる女性の姿は幸いにもとても綺麗で
いつもより顔色は白く見えたが、その顔は今にも目を開き自分の名前を呼びそうなほど
そう、綺麗だった
『ヨシノ・・・』
やっと口から出た言葉は最愛の妻の名だ
名前を呼び、その愛しい人の頬に指をなぞった
その指から彼女の温度を感じることは無く、冷たい塊になったことを実感させた
目を瞑り、しゃがみ込み時間だけが流れていった
感情が先か、時間が先か、感覚が狂ったような時が流れる
時間の感覚が麻痺していて思考が働いていないのであろう
窓の外が明るくなってきた
長く短い夜が開ける
世界はいつも通りの1日を始めるのだ
日の出とともに廊下を慌ただしい足音が響いた
拓也のいる病室のドアがノックされたが、拓也はそれに答えない
ずっと、何時間もベットに寄りかかるようにしゃがみ込んでいた
返事のないドアを開けて入ってきたのはヨシノの両親、実と咲江だった
『拓也くん・・・』
静まり返った病室でヨシノの父親の実が拓也を読んだが拓也は声を出すことができなかった
その代わりに静かに立ち上がり、深く頭を下げた
そんな姿の拓也から横に目を向けると、ベットに横たわるヨシノの姿があった
咲江は駆け寄り、ヨシノの名前を呼びながら泣き崩れた
それを見て実も声を押し殺すように手で目を押さえながら流れる涙を隠すように泣いていた
誰も何も言葉が出ず、ただただ涙だけが流れる時間が過ぎていき時は病院が開く時間になっていた
コンコン・・・
ノックの音に拓也はドアの方を振り向くと、
開いたままの扉の外に若く整った顔つきの白衣を着た男性が立っていた
年齢で言うと30代半ばというところだろうか
赤ちゃんを取り上げた医師だ
『先生・・・』
拓也の小さい声が病室に消えた
『白石さん・・・ご両親も来られたんですね
赤ちゃんが待ってます。会いにきてくださいませんか?』
実は先生に一礼し、拓也の元へ歩み寄り支えるように立ち上がらせ声をかけた
『行こう。』
拓也は咲江の方へ目を向けると、実は小さく首を振った
女親は強いというが、我が娘を失うことの辛さは計り知れない
咲江は立ち上がることができないのだろう
実もギリギリの感情で振る舞っているのであろう
拓也は申し訳ないと思うが感情が追いつかずヨシノのそばから離れることができず、生まれてきた我が子の元へ行くことすら忘れていた
先生に連れられ、拓也と実は子供の元へ向かった
ガラスの向こうに生まれたばかりの赤ちゃんが何人か並んで寝ている
その光景を横目に部屋の扉へと向かう
拓也の目には映っているが特に何か思うわけでもなく先生の後をついていきだた歩く
そして扉の前についた
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