第66話

「後はこのまま30分程、煮込むだけだな…」

シリウスは、召喚魔法で出した『クリームシチューの素』を入れながら言った。

「そうですね。それにしても…コレは楽ですね。何度かレイオスの風魔法を応用した浮遊を通してシェルファ殿のいるフォルダニアの森に行ったことはあるのですが、文字だけはどうしても分からなくて買わなかったのですが…」


何しろ、フォルダニアの森にあるモノは、全て表記名が日本語なのである。

この世界では、ルーン文字みたいな記号が主流らしいけど、俺は転生者だからなのか、文字は普通に日本語として自動変換されているんだよなぁ…。

まあ、時と場合によっては、文字ってのは、ルーン文字で読むよりも日本語で読んだ方がニュアンス的に良いのだろう。


「で、お前のその作っているケーキ。砂糖の分量は多すぎないか?」

「そうですか?何しろフリックは、無類の甘いモノ好きだから…。それに囚われていた時、ロクに甘いモノも食べられなかっただろうし…」

「…それもそうだな」

シリウスは、あの幼い体で幾つもあった陵辱の痕に並大抵では済まされないだろうと思いながら、何とかあの平和ボケと欲に溢れている、ラグーン王国に向けて今は人並みの暮らしが出来るように体制だけでも整えなければと思いながら返したのだった。






一方、西の大陸にあるラグーン王国と打って変わって、東の大陸にあるゼノア帝国。

「ふむ…。どうやら思い過ごしだったようですな」

食糧庫から野菜の消費は無くなったことから、レスターは確認しながら呟いた。

「そうですよ。奴隷だって必死に牧畜や農業に精を出しているんですから」

「それもそうだな。ただ、肉類だけはまだまだ消費が激しいようだ」

「またですか…」

「ふむ。今度こそ徹底的に調査した方が良さそうだ…」

レスターはそう言うと、調査員を牧畜奴隷のところへと派遣したのである。



時を同じくして、西の大陸。

ラグーン王国内では、カイシェイドはフリックが脱獄したことに苛立ちを覚えていた。

「お前たちは何をやっていたんだ!小娘一人を易々と逃しただとっ!?」

「は、はあ…気が付いた時には既にもぬけの殻でして…」

城の中には不審者は誰一人と通した覚えはないことから、兵士は焦りながら返した。

「とにかくと西にある各国並びに村周辺を探し出すのだ!」

「は、はい…!」

魔石研究所から、魔力の提供が遅れていることを知ったことから、カイシェイドは今いるエルフだけでも魔力を全抽出尽くすことも命じながら、地下に残されていたという文字の解読するために、とある場所へと向かったのである。


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