真夜中だよ、全員集合

秋雨千尋

草木もねむる丑三つ時に鮮血パーティー

 オレオレ詐欺、特殊詐欺、母さん助けて詐欺。

 家族愛を利用し、電話を用いて詐欺にはめる。知名度が高い犯罪だが被害者は後を絶たない。気をつけてはいても、いざ当事者になれば正常な判断など出来なくなる。

 どんどん巧妙になる手口に警察も疲れ、ある捜査員が禁断の手段に手を出した。



「今回も楽勝だったな」

「あのバーサン貯め込んでたからな、タンスに眠らせたままじゃ金が可哀想さ」

「経済を回して世のため人のためってな」


 ゲラゲラ笑う詐欺グループ。大切な息子が反社会的な人達と事故を起こして殺されかけていると脅され、有り金すべて奪われた老婆への罪の意識などゼロだ。

 酒の入ったメンバーの一人が立ち上がり、トイレに向かう。用を足したのちに、玄関先に女が立っているのに気づいた。ボサボサ頭で無言でうつむいている。


「おーい、誰かデリヘル頼んだかー?」

「高級ソープなら行きたいけどな」


 部屋からゲラゲラと笑い声が返ってきた。メンバーは頭をかきながら女に近づき、キャンセルだ帰ってくれと告げると、伸びてきた長い手に両腕をつかまれ─

 そのままブチブチと引きちぎられた。


「…ぐああ、があっ」 


 肩口から血がびしゃびしゃ飛び散り、あまりの痛みに男は膝をつき目をぐるぐる回した。その様子を見た女は低くなった頭の上から手刀を振り下ろし、スイカのようにパカンと割った。血が脳みそをともない噴水となっている。


「おーい、漏らしたのかー?」

「汚ねえな、ちゃんと掃除しろよー」


 ゲラゲラ笑い続けるうちの一人が、つまみに伸ばした手を掴まれる。なんだと思ってテーブルの下を覗くと、ギョロッとした目の青白い子供がいた。子供は目が合うとニィィと口の端を上げた。テーブルの下に引きずり込まれ、バキベキゴシャと鈍い音が鳴り響き、カーペットが血に染まった。


「んあ?どこ行ったんだ?」


 気がついたら一人だったリーダーは辺りを見回し聞き耳を立てるが、ひたすら静寂が広がっているだけだった。酔いすぎたかと頭を振り、もう寝るかと襖を開けた先に─

 日本刀を持った老婆が立っていた。


「はあ?な?な?」


 老婆はゆっくりした動きで構えた日本刀を高く上げ、目の前の悪鬼を袈裟斬りにした。心臓まで到達した傷口からはダラーと大量の血が流れ、口からもゴボゴボと吹き出していく。

 部屋には血の飛んだ札束と無残な死体だけが残された。



 特殊詐欺の捜査に行き詰まり、切羽詰まってネットで調べた呪術をありったけ試した捜査員は、全国で同時多発的に発生した変死事件に頭を抱えた。現場の状況、スマホの履歴などから被害者たちは詐欺グループだと分かったが、明らかに他殺な状況ながらいずれも密室であり、犯人の痕跡は何も見つからなかった。

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真夜中だよ、全員集合 秋雨千尋 @akisamechihiro

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