真夜中、雪降る野辺山の山中で
春日あざみ@電子書籍発売中
第1話 夜のピクニック
私の母は「支えてもらえないと生きて行けない人」だった。
父が生きているときは父に、父が亡くなってからは私にべったり。役所の手続きは難しすぎてできないと言い、一人ではどこにも行けないと言う。さらには家計の管理もできなくて、いつもお金が足りなくなり、私に仕送りを何度も要求してきていた。
愛情深い人ではあって、子どもを大切に大事に育ててくれる人ではあった。そういう部分もあったから、私は母を見捨てられずにいた。
そんな母が逝った。
友達からは「毒親」だと言われて、そんなに金をせびられるなら関係を切れとも言われたけど。仕送りはきつかったし、そのせいで友達と旅行に行くこともできず、節約生活を強いられてはいたけど。
それでも私にとっては、大事な母親だった。
⌘
「強歩大会? 競歩じゃなくて?」
SNSを開いていて偶然たどり着いたその投稿は、今年もとあるユニークなイベントの応募が始まったというものだった。
投稿への反応を見るに、地方の市町村が開催するイベントとしては、それなりに人気のあるものらしい。
『人生観が変わる』『究極の自分との戦い』という、なんだか異様なコメントもあって。その辺の地域イベントと一線を画す雰囲気があり、興味を惹かれてページを開いた。
そこには、「星空強歩大会」というイベント名が表示されていた。
毎年千人ほどが参加するというそのイベントは、夜間に出発し山梨県と長野県の自然を満喫しながら、自分のペースで歩いてゴールを目指す、というものらしかった。子供から老人まで、美しい星空の下を歩く参加者たちの写真も添えられている。
(ああ、いいなあ。「夜のピクニック」みたい)
思えば、仕送りのためにお金を稼ぐことばかり考えていて、趣味で何かに挑戦することも、アウトドアイベントに参加することもほとんどなかった。
自分のために何かをする、新しい一歩は、ちょっとくらい思い切ったものでもいいんじゃないだろうか。その方が、勢いついて、自分の人生を楽しめる気もする。
私は早速フォームから申し込みをして、お金を振り込んだ。
––––だが勢い余って申し込んだ私は、この大会の大事な要素を見落としていた。なんとこの大会のコースは、全長78kmもあったのだ。
私がこの事実に気づいたのは、申し込み後ひと月が経った頃。参加案内が届いてからだった。
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