第130話 像のひみつ

「わたしだって、わたしにだって、しあわせに……わああああぁ」


 リズはオイオイと泣く。

 しらんがな。むしろ泣きたいのは俺ですよ。

 追い出されて、命狙われて、悪魔と戦わさせられて、勝手に勘違いされて、頼られて。

 あげくの果てにはお前じゃないと泣かれる。


「しかも君ね。ロッコにサモナイトに口きけって頼んだそうじゃないか。なのに、その舌の根も乾かない内に俺に紹介せよとねだってくる。ロッコに失礼じゃないのかね? そういうとこやぞ。ロッコはちゃんと頼みをはたそうと俺に相談しに来たじゃないか。君はなんだね? どうせおとなしく待たずにチョロチョロして伯爵につかまったんだろ? そういうのを自業自得って言うんですよ」


「びえええええええ」


 リズはさらに大声で泣く。

 ガキンチョか!

 泣いたところでキサマの味方など、ここにはおらん。

 ムダなことはやめて心の底から反省しとけ。


「マスター、もう行かない? わたし飽きちゃった」


 ルディーがあくびしながら言った。

 けっこうしんらつやね。バッサリどころか興味すらないと。


 ――それとも教えてくれてるのか?

 あまりネチっこ過ぎるのも良くないと。

 

 まあいい。たしかに俺も飽きてきた。

 コイツばかりに時間は割いてられないのだ。


「とにかくだ。お前の身はサモナイト商会であずかるから。ロッコ、コイツの面倒を見てやれ」

「は、はい」


 ロッコは急に振られて慌てながらも了承した。

 当のリズはメソメソと泣いている。


「会長、報告があります。馬車と人員の確保完了いたしました」


 区切りがついた瞬間、ベリンダがヌルっと入ってきた。さすが仕事も早いし抜け目もない。


「わかった。荷を積みこんでおけ。明朝には出立しゅったつする」

「承知しました。それと、使者が来ております」


「え! また?」


 こんどは誰っすか?

 わしゃ問題を解決する便利屋ではないのだが……。


「パラライカの冒険者ギルドからです。ギルドマスターのラングより、ことづけを預かってきたとのこと」


 冒険者ギルドから? このタイミング、もしかして……。


「内容は?」

「ジェイクなる者を捕らえたと」


 やっぱり!




――――――




 けっきょく他国への出立は延期した。

 いまはパラライカへと馬車を走らせているところだ。

 馬車は超高速。オットー子爵が運転する俺専用馬車だ。景色がすごい勢いでうしろへ流れていく。

 馬もすでに走っていない。馬車ごと地面すれすれを滑っていく。


 御者台には俺とルディー、人を乗せるコーチにはロッコとリズだ。

 なんで会長の俺が御者台なんだって話だが、ルディーやオットーと喋るのにちょうどいいからだ。


「ねえ、マスター。リズって子どうするの?」


 リズは二十代前半。子っていうほど若くはないが、ルディーから見ればまだまだ若い。

 子って感じなのだろう。


「そうだな。まずはパラライカへ連れていく。そこで冒険者をするか、ロッコの下につくか、それは本人しだいだ」


 無理強いはできない。本人がしたいことをすればよい。

 ただなあ。

 リズを商会で雇うのはちょっと抵抗がある。計算高いところがあるからな。

 もちろん、計算高いこと自体は悪くはない。頭が切れるってことだからな。

 ただコイツの場合、自分のための計算だ。組織のため仲間のために知恵をしぼるワケではない。

 そこがどうも好きになれんのだ。


「なんやかんやと面倒見がいいよね、マスターって」


 しょうがない。そういう性分しょうぶんだ。

 下っ端のうちは自分のことだけ考えてればいい。けど上に立てばそうもいかないわけで。

 立場が人を作るってやつだ。


 ……まてよ。それならばリズも同じか。

 立場が変われば考え方も変わるかもしれん。

 ――やっぱ難しいか。性根の問題の気もするしな。

 まあ、ここから先はリズの問題だ。俺がどうこう言うものでもないだろう。


「あ、そうそう。この道の脇に立ってる像あるじゃん」

「ああ」


 ルディーがパッと話題を変えた。

 それなりに気をつかってくれてるのだろう。


「よく許したよねマスター。いくら顔を削り取ったからって自分の像を並べるなんて」

「まあな」


 たしかに最初は腹が立った。だが、考え方を変えたんだ。逆に利用しちまえってね。


「なあ、ルディー」

「な~に?」


「あれ、実は伯爵が作らせた像じゃないんだ」

「え!」


「そんなもんとっくに壊してる。コナッゴナのサラッサラで風に乗ってフワーだ」

「ええ! じゃあ、あの像は!?」


「ガーゴイルだよ。上から石膏で俺の形に塗り替えた」

「……マジで?」


「マジで。だからなにかあったら一斉に飛び立つわけだ。街道でオイタでもしようものなら飛んで群がってくる」

「うわー、ひっど!」


「ひどくはねえよ。セラシア村なんてもっとすごいぞ。一見ショボイ堀と塀だが、いたるところに精霊と悪魔が潜んでいるからな。悪さしようものなら骨も残らん」

「ひー!!」


 防御としては完璧だ。

 ただ、なにが起こったかは報告をうけるまで分らない。

 瞬時に把握する手段があればなあ。


 ちょっと欲張りすぎか。

 まあいい。一個一個目の前のことを片付けていこうじゃないか。




――エムの仕返しリスト――


 元パーティーメンバー

 @女剣士リズ  完了

  女盗賊

 @リーダーの男戦士ジェイク  完了

  女僧侶


 その他

  宿屋の女将(保留)

 @ピクシー   完了

  リール・ド・コモン男爵

  セバスチャン



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