第二部 新天地にて力をつける
一章 商人をめざす
第38話 あたらしい街
俺たちは旅を再開した。
朝と昼は誰もいない空のうえ、ルディーとキャッキャキャッキャとさわぎながらも、ときどき地形を地図にしるす。
夜は農場へ戻って花と作物にかこまれて眠る。
そんなハードな冒険をくりかえすこと数日、ある大きめの都市を発見した。
都市には城壁もなければ門もない、多くの人や馬車が行きかう姿が見える。
これはいい。
出入りの制限は流通の
商人を目指す俺にとってかっこうの場所。
ここを新天地と定め、勢力を拡大していくとしよう。
ちなみに契約した精霊はさらにひとり増えた。
花の精霊デイジーだ。俺があの世界で初めて会った精霊、あのふしぎちゃんと契約したのだ。
彼女の能力はたいしたことはない。手にした植物にポコっと花をさかせる程度だ。
戦いにはまったく活躍できないだろう。
それでもけっこう助けられている。
彼女との契約の
「ねえ、庭の管理どうするの?」と。
そうなのだ。庭の管理はルディーの仕事。しかし、俺と旅をしているあいだは放置するしかない。
美しい庭の維持には、必ず人の手が必要だ。管理に専念するか、別の誰かに託すかだ。
管理に専念……それはイヤだ。
だって一人旅になるじゃん。ヒマだし、寂しいし。
てことで代わりを立てることにしたのだが……
「いやじゃ」
「……」
『ボワッ!』
ノームにはあっさり断られ、ドライアドには無視され、鬼火にいたってはなぞの威嚇をされた。
威嚇はよーわからん。怒ってるのか、意気込みの表れなのか。
まあ、かりに了承だとしても鬼火では庭がやけ野原になるのが関の山だけども。
一番の適任は植物を操れるドライアドのハズなんだけどな。
しかし、あいかわらず彼女の考えていることがわからない。
俺の命を守ろうとしてくれているのは確かなんだが、それ以外は
木としての生存本能はあるものの、手を加えることをヨシとしない、基本自然淘汰にまかせるというか。
そんなときに思い出したのが
さっそく交渉。
「おれの庭にきて」
「いいよ~」
あっさり。
「管理をまかせたいんだけど契約してもらっていい?」
「いいよ~」
「対価なんだけど」
「なんでもいいよ~。そのかわり追いださないでね~」
ぶじ契約。いいんだろうか? こんな簡単で。
最近『追いださない』がパワーワードになってる気がする。
むかしさんざん苦労したのはなんだったのかと、ちょっと複雑な気分にもなってくる。ありがたいんだけどね。
もしかしてアレかな。管理者権限。
ジジイから俺にうつってんのかな?
庭から追いだすみたいに考えてたけど、本当は違うんじゃないか?
あの世界そのものから追放できる権限が俺にはあるのかもしれん。
まあ、よっぽどのことがないかぎり、試そうとも思わないけどね。
「マスター、準備できたよ~」
ルディーの声で我に返る。
そうだ、これから街に入るんだ。集中しないと。
街からほど近く、人目につきにくい場所に扉を設置すると、徒歩でむかう。
さあ、こんどはどんな出会いがあるんだろうか。
願わくば俺にとってやさしい場所でありますように。
――――――
「登録料、金貨二枚になります」
「たかっ!」
さっそくやってきたのは商人ギルド。聞けばお金を払えば誰でも商売ができる権利をもらえるという。
しかし、登録料と
まあ、ギルドの信用にもかかわってくるので、しかたのない面はあるのだが。
しぶしぶポッケから金貨二枚をだす。
ちなみにこのお金は戦利品だ。セバスチャンの服の内ポケットに入っていた。
そのかず全部で十枚。これで残り八枚となる。
「では、ここにお名前をお書きください」
名前、なまえか……
よし! エム・サモナイトにしよう。
もちろん偽名だ。だが、はっきり言って隠す気などない名前である。
ここまで空飛ぶ船でやってきた。
男爵どもが追っ手を放ったとして、ここにたどりつくまで何日かかる?
徒歩か馬でトコトコ、テクテク。しかも行き先は分っていない。
何か月、下手したら年単位だろう。
それまでに手出しできないほどの力をつければいいのだ。
というか、そもそも倒すだけなら簡単なんだよね。
男爵の屋敷のうえまでコッソリ船で移動すればいいんだから。
で、上空に扉をひとつ設置する。
とめどなく海水があふれてくるハズだ。
街ごと壊滅だな。
しかし、そんなことはしたくない。
俺が望む復讐とはちがう。
そうだな……圧倒的な権力をバックに頭を下げさす。
さらにワナをはって追い込む。最後は冒険者に追われて逃げ惑わせる。そんな屈辱を味合わせてやりたい。
ふははは、そのときが楽しみだな!
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