第21話 まわりみち

「失せろ」


 一等区へと向かう途中、番兵に行く手をはばまれる。

 貴族が住まうこの地区は、平民以下の立ち入りが制限されているのだ。


「なんとか中にいれてくれませんかね?」

「失せろ」


 低姿勢で頼んでみても、とうぜん結果は同じ。

 ニコリともしない番兵はつめたい目でこちらを見ている。


 しかたない。

 背中を向けると、えっほえっほと駆け足しながら円を描くように戻ってくる。


「中に……」


 槍を持った番兵は、無言で穂先を向けてきた。


「ジョウダンですやん」


 ダメだ。まったく通じない。

 めんどくさいなあ、もう。



 つぎに向かったのは冒険者ギルド。

 俺にとって、いわゆる古巣ふるすってやつだ。

 正直、ここにはあんまりいい思い出がない。

 楽しかった時期もあったが、最後にした肩身のせまい思いが、すべてを塗りつぶしてしまっている。


「今度くるときは商人として依頼をするときだと思ってたんだけどなぁ」


 ポツリとグチをこぼすと、中へと入っていった。 




「オイ! 押すんじゃねよ」

「それは俺が目ぇつけてた依頼だ」

「銅貨二枚でいい依頼をみつけてあげるよ~」


 ギルドのなかは喧騒けんそうにつつまれていた。

 ガタイのいい男は列に割り込み、コスイ男は並んでなんかいられないと、他人が取ってきた依頼をかすめとる。

 なかには自分で依頼を引き受けず、よさそうなものをピックアップして誰かに渡すものまでいる。


 冒険者ギルドはあっせん業者だ。

 日々、さまざまな依頼が舞い込んでくる。

 魔獣退治や土木工事、はては手紙の配達まで。

 ホードにとめられたそれら紙きれを、みなで奪い合うのだ。


 俺はこの無秩序むちつじょな空間があまり好きではない。

 冒険者は学がなく、粗野そやだ。字が読めないものだって多い。

 字が読めないものはダマされやすく、力がなければ泣き寝入りするしかないのだ。


 いまだってほら、目の前で力のないものが搾取さくしゅされようとしている。


「ちょっと、返してください」

「ああ? すっこんでろ。コイツは俺が目ぇつけてたって言っただろうが」


 絡まれているのは新米冒険者だろうか、屈強な男にせっかくとってきた依頼書を横取りされようとしている。

 この若き冒険者は、まだ幼く体もできあがっていない。横取りをするような三流が相手とはいえ、かなうハズがないのだ。


 俺は風魔法で三流冒険者が奪った依頼書を空にまきあげると、ふわりふわりとただよわせた。


「あ、おい、こら」


 それを追いかけていく三流冒険者。

 やがて壁際までいくと……

 ドン。

 しこたま頭をぶつけ、地面に尻もちをついた。

 

 まだ、ふわふわと宙をまう依頼書。やがてそれは新米冒険者の手の中へとおさまった。


「ててて、チキショウ、誰だ!」


 三流冒険者は鼻息を荒くする。

 まわりにいるものは知らん顔だ。いざこざに巻き込まれたところで一円にもならないからだ。

 相手が魔法使いと思えばなおさらだ。

 三流冒険者も、それはよくわかっている。メンツを気にして息巻いているものの、本気で犯人を捜そうとしない。


 冒険者ギルドは人であふれかえっている。

 どこから放たれるかわからない魔法に挑むほど、アイツもバカじゃないのだ。



 ん~、じゃ、俺も依頼を受けるとしますかね。

 ベタベタ~っと、紙きれが貼られたボードへむかう。


「あった、あった、これこれ」


 『この手紙をリール・ド・コモン男爵に届けられたし』

 俺が手にとったのは手紙の配達依頼だった。


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