第19話 にがさん!

「オラ―、でてこい」


 ナベを木の棒でガンガン叩き、ピクシーを呼ぶ。

 

 ……来やがらねえ。

 リアルかくれんぼでもするつもりか。

 

「ふん、バカが」


 契約したことを忘れたか。おまえは俺から逃れられないのだ。


「ピクシー召喚!」


 さっと手をかざすと、地面に魔法陣がうかぶ。

 それが白から赤へとかわると、バツの悪そうな顔をしたピクシーが現れた。


「オメー、チャームの魔法つかったろ」

「え~と、あの、その~……テヘ!」


 かわいらしく舌をだすピクシー。

 その手にはのらん。


「おら!」


 デコめがけて、ぱちこーんと中指ではじいてやった。

 ピクシーは「ふぎゃ」と声をだしながら森の奥へとフッ飛んでいく。


 あ、しまった。ちょっとやりすぎたか。

 大丈夫か~。呼びかけるが返事はない。


「ピクシー召喚!」


 魔法陣から現れるピクシー。

 目をグルグル回しながら、あおむけにひっくり返っている。

 よかった。ぶじだ。いがいと丈夫だな、ピクシーって。


「おい! 大丈夫か」


 胸元をつまんでゆする。


「ハゲ、ほげ、ひげ……」


 だれがハゲじゃい!

 さらにゆする。


「オゲゲゲゲー」


 ピクシーは朝飯をぜんぶ吐いた。




――――――



「じつは、カクカクしかじかというワケでして……」


 床にチョコンと正座したピクシーの話によると、彼女は村を追いだされたのだそうだ。

 なにやら特異体質らしく、無意識にもかかわらず周囲にチャームの効果をあたえてしまうんだと。

 それで他人の旦那や恋人をうばいまくり、女たちから総スカン。

 村にいられなくなり、流れ着いたのがこの世界だった。


 いや、そんな恰好してるからじゃね? とも思ったが、チャームの効果は絶大だ。

 食らってわかるその威力。自覚もなければいつかけられたのかもわからない。恐ろしい魔法だ。


 俺が思うに……たぶん、目だな。

 目を見つめ続けてると術にかかる。思い返せば契約の時点であやしかった。

 おかしいと思いながらも、深く考えることを放棄していたのだ。


 また、本人の体質ってところも悪かった。なにせ危害をくわえるつもりなどないのだ。契約によってはじかれることもない。

 う~ん、どうすんべか……


 まあ、目をみなきゃ大丈夫か。

 なるべく正面に立つのをさけ、ケツかチチでも見ときゃいいだろ。

 うん、それがいい。それがお互いにとって最善策だ。



「よ~し、じゃあさっそく仕事をしてもらうぞ。おまえにはある人物の調査をしてもらいたい」


 パン! と手をたたいてそう言うと、ピクシーは驚いた表情をみせた。


「え! 追い出さないの?」


 追い出すワケねーじゃん。それじゃあジェイクたちと同じになってしまう。

 お互い歩みよって、それでもダメなときに別の道を進めばいいんだ。


「おまえの力が必要だ。それに約束だしな。俺は家を作る、オシャレになるかはわからんが家具も。だからおまえは、しっかりと自分の務めを果たすんだ。わかったな」

「うん!」


「うん、じゃない。ハイだ。じゃ、行こうか」


 そう言って手をさしだすと、ピクシーは手のひらに飛びのった。


「わたし、ルディー」

「俺はエムだ。よろしくな」


「はい! マスターエム」


 削りかけの白い丸太にまたがると、俺たちはメンドリ亭へむけて発進した。




――エムの仕返しリスト――


 元パーティーメンバー

  女剣士

  女盗賊

 @リーダーの男戦士  完了

  女僧侶


 その他

  宿屋の女将(審議中)

 @ピクシー      完了



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る