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「悪くない額だろう?」


「よすぎるくらいだ——でも、きっとおれには、正解なんてできないよ。だいたいお前に解けない問題が、おれに解けるはずもないだろう」


 湯田はこう見えて、一流理系大学の卒業者だ。三流普通科高校卒のおれとは社会的な格も違うし、実際おれの知っている誰よりも、頭がよくて教養もある。単に知識を蓄えている教養ではなく、ものごとをありのままに見ることができるという本物の教養が。でないとしがない私立探偵であるこのおれと、いつまでもこうして仲良くしていたりはしないだろう。


 いや、と、紺と白の斜めストライプのネクタイを少しだけ緩めながら湯田が言った。「お前も知っている通り、おれはただの元ガリ勉だ。カフカの出身地だって知らないし、作品を読んだこともないし、興味すら持てない。読む本と言ったら、ありえないトリックがもっともらしく書かれている、三文ミステリが関の山だ。そしてお前のようにものごとを追究して考えたりしないし、柔軟な発想ってやつがまったくできんときてる堅物だ」


 そういう風に、ネガティヴな自分を淡々と認められるところが堅物じゃない証拠だよ、とおれは言いたかったが、その前に湯田が続ける。


「ってことでなあ、やるだけやってみてくれないか。そいつがお前に、興味を持ってるんだ。いや告白すると、おれの出世がかかってるんだ。そいつを口説き落とし、今回の事件を、解決できるかできないかで」


 下心をさらっと告白できる点もまた、本物の教養を持っている証だと思ったけれど、違うことをおれは言った。「金を積んで、そいつを口説き落とせばいいだけのことじゃないのか?」


「いや、そいつは今や、金には不自由してないんだ」


「今や?」


「元々金持ちな上に、もう使い切れないくらいに儲けてるってことだ。それに顧客は、警視庁だけじゃないからな」


「と、言うと?」


「海外の警察からも、依頼があるってことだ」


「そう聞くと、ますますおれが合格できる気がしないんだが……そもそもの話、部外者であるおれが協力して、お前の功績にできるのか?」


「それは大丈夫だ。お前はそいつが、個人的に雇った探偵ということになるから問題は何もない。つまり表向きは、全部おれの手柄になるように手配済みってことだ」


 呆れ顔のおれに、指を三本立てながら湯田が続ける。


「もちろん、日当も出す」


 実を言うと、金に関係なく、既におれの気持ちは協力したい方にグッと傾いていたが、その好奇心を抑えながらこう尋ねる。


「一体何者なんだ、そいつは」


「そうだな、一言で言うならば——殺人鬼だ。ただし、『』」

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