真夜中の誕生会

オカメ颯記

真夜中の誕生日

 足音が遠ざかっていった。

 全身を耳にしていた少女たちは寝台の上から起き上がる。

「いっちゃった?」

「うん、いったよ」


 扉に耳をつけて、外の様子を確認した少女が手で合図をする。


「さぁ、みんな、急いで」


 また見回りの先生が戻ってくるまで一時間ほど。

 その間に準備をして、みんなと連絡を取って……


「お菓子はどこ?」

「お茶の用意をしなきゃ」


 こっそりと寝台の下に隠しておいた菓子やお茶の道具を取り出し、備え付けの湯沸かし器で湯を沸かす。


「お茶の葉っぱ、誰の担当だった?」

「はいはい、ティーパックしか手に入らなかったけど、いいかな」


 部屋の明かりをつけることはできない。外から見えてしまうからだ。

 小さな懐中電灯を床において、少女たちは暗闇の中で準備をすすめた。


「そろそろ、みんなを呼んできて」


 一番小柄ですばしっこい少女が、扉をそろりと開けて廊下に忍び出る。


 しばらくして、他の部屋の少女たちも集まってきた。


「みんな、大丈夫?」

「うん。ちゃんと、ばれないように工作してきたから」


 忍び笑いが部屋にこだまする。すぐに、誰かがしーっと指を口に当てた。


 ホーホー


 夜になく鳥の声がして、少女たちはぎくりと顔を見合わせる。


「見張りからの合図だよ。先生だ」

「どうする?」

「隠れて……タンスの中」


 その部屋の少女たちはお菓子やお茶の道具を寝台の下に隠し、他の部屋の少女たちは物陰に身をひそめる。

 寝たふりをした少女たちは薄目を開けて、こつこつと響く先生の足音に神経を研ぎ澄ませる。


 明かりが扉の隙間から漏れて、しばらくその場にとどまった。

 少女たちは息をひそめて、いかにも寝ているように振舞う。

 また、足音が遠ざかり、それでもしばらく少女たちは寝たふりをした。


 ホーホー


 見張り役を引き受けてくれた子からの合図を受けて、みんなほっとしたように起き上がる。


「もう、大丈夫だよ。でてきて?」


 ぞろぞろと隠れ場所から出てきた子たちは顔を見合わせて忍び笑いをした。

 小さな明かりに笑い顔が照らされる。


「もう、ばれちゃったかと思った」

「さっさと始めよう」


 少女の一人が、お菓子にたてたろうそくに火をつける。


「お誕生日おめでとう」

「おめでとう」


 秘密の誕生日パーティ。

 笑う少女が蝋燭にふっと息を吹きかけると、暗闇の中、少女たちの押し殺した笑いが広がった。


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真夜中の誕生会 オカメ颯記 @okamekana001

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