あれ?こんな物語だったっけ?

モン・ブラウン

第一章

第1話

こんなとになるとは思わなかった。


目の前にはこの国の王太子、シャルル・ファン・グロブァ。

黒髪に金の刺繍をあしらったジャケットを見事に着こなしているこの人は現在私を抱きしめていた。


待って待って!さっきまでは私なんか眼中になかったのにどうしてこんなことに!


はじめての経験に頭の中が急に真っ白になる。


赤い顔をさせてプルプルしているのをみて「かわいい」と呟き抱きしめている力がまた強くなった。


私の知っている物語はこんな展開はなかったのにどうしてこんなことにーっ!


⭐︎


遡ること数時間前。

今日は王宮で開かれるパーティへ参加するため私は朝から身体を磨かれ、ドレスへと着飾られていた。

侯爵家の令嬢なのにコミュ障&人見知りなので、王宮はデビュタント以来だ。本当は今日のパーティも非常に行きたくないのだが、欠席は許されないらしい。


所詮侯爵の権力はそんなもんだ。公爵とは違うんだ…


私は少し不貞腐れ気味にメイド達に我が身を任せる。私が1人思考に耽っている間もせっせとメイド達は手を動かし支度を整えていく。


あぁ行きたくない、非常に行きたくない…


私のすぐ近くでせっせと手を動かし、メイドに指示を出しているメイドのブランが呆れたよう口を開く

「お嬢様…行きたくない気持ちはよぉくわかりますがいい加減腹を括ったらどうです?」


「そんなこと言ってもあんな煌びやかなところになんて足がすくんでしまうわ!」


考えただけでも緊張して足がガクガクして何も考えられないというのに腹を括れだなんてこのメイドはなんてことをいうの!


「私はお嬢様のためを思って言っているのです。このままでいいとはお嬢様も思っていないでしょう?」


…おっしゃる通り。確かにこのままではいけないと薄々は思ってたよ。思ってたけどさー…

まだ、グズグズと最後の悪あがきと言っていると


「さぁ、お嬢様支度は終わりましたよ」

「…うぅ、行ってきますわぁぁ」


私は情けない声で自分の部屋を後にする。覚悟はまだできていない。

「行ってらしゃいませ、お嬢様」

普段は笑顔なんて見せないのにこういう時だけは笑顔なんだからそれが憎いわ。


ブランは私つきのメイドで私が13歳の時にこの屋敷に働きに来た。

その時は私付きではなかったのだけれど、サバサバとした性格が気に入り私付きにしてもらったのだ。

毒も吐くし、無表情だけれどそこがまたいい。


階下を降りてエントランスの方へ向かうともうすでにお父様が待っていた。


「スノウ。準備はできたのかい?」

「はい。お父様」

「私はもう少しグズると思っていたのだがブランにお前を任せて正解だったな」


最初はブランの評価はあまりよろしくはなかったけれど、私の操縦が上手くすぐに両親、メイド長の評価がうなぎ登りになっていった。

今では夜会やお茶会などどうしても出席せざるを得ない時の説得役はブランに任されている。


そんなブランの貢献もあって当初予定していた時刻より早く屋敷を出発することができた。


馬車は着実に王宮へと向かっているもう今回は逃げる事は諦めた方がいいかもしれない。

せめて誰にも気づかれないように隅の席で隠れていよう…


私は馬車の中でひそやかに計画をたてはじめた。


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