第六話 模擬戦
女子たちもジョグを終えて帰ってきた。
そして、師匠が腕を組んで話し始める。
「よし、では、一対一の模擬戦をやるぞ。基本的にルールはなしで、全力で戦ってもらう。ただしロエル、君は模擬戦中の魔法を禁じる。君の魔法の実力は僕が身をもって体験したからね。」
やっぱ魔法は縛られるよな。
「じゃあ組み分けをするぞ」
師匠は木の棒でつくられたくじを取り出した。
俺が一本ひくと、先端が青い棒がとれた。
他のみんなも一本ずつ引いていく。
イアは赤、ラインは青、フレイは赤を引いた。
「よし、みんな引いたな。では、同じ色同士で戦ってもらう。まずは赤からだ」
俺はラインとか。魔法なしだとちょっと厳しいかもな。
そして、イアとフレイが中庭で向き合う。
「イアちゃん、よろしくね。本気で魔法とか使ってきちゃっていいよ!」
フレイのやつ、完全にイアをなめてるな。まあ、悪意はないんだろうけど。
「本当にいいの? 後で文句言わないでよ」
師匠が真ん中に立った。
「では、模擬戦を始める。開始!」
ブォン
イアの中位風魔法が炸裂!
フレイの顔面にヒット!
風がフレイの頭を振動させる!
フレイは脳震盪で倒れた!
…………
「勝者、イア!!」
まあそうなるわな。
一応イアも上位魔法まで使えるから王宮魔法師より強いし。
ラインもイアの強さは知っていたので当然だなという顔をしていた。
「やったー! 勝ったよロエル!」
「よく頑張ったね」
とりあえず俺はイアを褒めた。
でも、これ、模擬戦の意味あっただろうか。
師匠はフレイを起こした後、魔法師の強さを見た目で判断するななどといった説教をしていた。
さて、次は俺の番だ。
俺は木刀を担いで中庭の真ん中へ向かった。
ラインも槍をもって俺と向き合う形で立つ。
「魔法さえなければロエルなんて楽勝だよ」
くそ、ハンデがあるからって調子に乗りやがって、今に見てろよ。
俺は無言で木刀を前に構えた。
それを見てラインも腰を落とし、槍を構える。
師匠が真ん中に立った。
「では、模擬戦を始める。開始!」
模擬戦が始まった。ここからは魔法が使えない。
俺もラインもいきなり突っ込んだりせず、様子見に徹した。
まったく状況が動かず、ついにラインが焦れた。
「いつもは始まった瞬間に魔法をとばしてくるくせに、今日は様子見か! だったら俺から行かせてもらう!」
ラインが地面を蹴った。
そして、一瞬で俺との距離をつめ、槍の射程ぎりぎりで止まると、下方から突き刺してきた。
俺は木刀の腹でそれを受ける。
ラインはすぐに槍を引き戻し、連続突きを始めた。
俺は木刀で身を守り続けた。
だが、防ぎきれず何発かは被弾してしまう。本物の槍だったら今頃血まみれだ。
「オラオラオラァ! 防戦一方だなあ!」
ちっ、射程が槍の方が長いから反撃できない。何とか距離をつめないと。
とりあえず一旦槍を強めに押し返してバックステップで距離をとった。
ふぅ……これで仕切り直しだ。
「この! チキンが! 逃げんじゃねえ!」
よし、じゃあ次は俺から行かせてもらおう。
俺は全力疾走して、また距離を詰める。
ラインが近づかせまいと槍で突いてくるが木刀で左側に受け流す。
そしてそのままの流れで一回転して右下から斜めに切り上げた。
だが、ラインは引き戻した槍を体の側面にあててそれを防ぐ。
ラインのカウンターが木刀を振り切ってがら空きの俺の腹に突っ込まれた。
ごふっ
俺は十メートルほど吹っ飛んだ。
やっぱ魔法なしだと厳しいね。
ラインが追撃を加えようと近づいてくる。
……そろそろ時間だな。
俺は近づいてくるラインに木刀をぶん投げた。
「はは! 自棄になったか! ロエル!」
当然ラインは槍で木刀をはたき落そうとした。
ラインの槍が木刀に触れた時……
バリバリバリバリ!!
木刀から電気が放電された。
そして近くにいたラインはもろにそれを食らう。
「あばばばばばばば」
ラインは感電して動きが止まった。
そして放電が収まった時、一気に近づいた俺の渾身の正拳突きがラインの顔面に炸裂!
ラインは倒れた。
「勝者、ロエル?」
俺は勝利した。
________
回復魔法をかけてラインを起こした。
ラインは目を覚ますと、早速文句を言ってきた。
「おいおいルール守れよ! これはルール違反で俺の勝ちだろ!」
「何を言ってるんだい? 俺は何もルールを破ってないぞ」
「魔法使ってただろうが。魔法は禁止じゃないのか?」
「それは模擬戦中の話だろ。俺は模擬戦中は魔法をつかってない」
「じゃああの電撃はなんなんだよ! 自然現象とでも言うつもりか?」
「いやいや、あれは模擬戦前に魔法を使ったんだよ。一定時間経ったら放電する魔法をね」
そう。俺は模擬戦前に魔法を使っていたのだ。よって模擬戦中に魔法を使ってはいけないというルールは守っている。ちょっと屁理屈だが、師匠も論破できたのでいいだろう。
「なっ、そんな話あっていいのか」
「はは、ルールの穴を探すのも実力さ」
そして、師匠がやってきた。
「まあ今回は穴のあるルールにした僕の責任だ。納得してくれ」
「し、師匠が言うなら……」
ラインは大人しくなった。
そして、師匠が一言。
「今回の模擬戦の目的ってなんだったんだろうね」
ですよね~
イアの戦いは一瞬で終わったし、俺の戦いも結局ルールの穴をついた魔法で終わってしまった。
俺とイアの実力を測るという目的はほとんど果たせていない。
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