第二十話 イアの誕生日

 ところで、俺が先日五歳の誕生日を迎えたということは、同い年のイアももうすぐ誕生日を迎えるということである。


 もちろん捨て子だったイアの誕生日は誰も知らないが拾った日を誕生日としているらしい。


 ということで、俺はイアにプレゼントを贈ることにした。




 さて、イアには何を贈れば喜んでくれるだろうか。


 イアは女の子だからな。アクセサリーでも贈ればいいだろうか。


 そうだ!魔道具制作の練習も兼ねて魔法を付与したお守りを作ろう。




 俺は最近魔道具制作にはまっていた。


 普通の道具に極小の魔法陣を刻んで、魔力を流すとそれが起動するようにするのだ。


 ほぼノータイムに無詠唱で魔法を撃てる俺にはあまり必要ないかもしれない。だが、将来的には魔石をつけて全自動で起動するようにしたいと思っている。そうすれば自動防御とかもできるはずだ。




 デザインはどうしようか。


 というかまずどこにつけるアクセサリーにしようか。


 指輪だと成長したらつけれなくなる。


 ネックレスは俺がもらったものとかぶってしまう。


 髪留めにしよう。


 これならお手軽に作れて成長してもつけることができる。




 さて、次はデザインだ。


 俺はイアの髪を思い浮かべる。


 透き通るような薄い水色で、長くさらさらしている。


 これに合うもの…


 ふむ…付与する魔法は氷属性の防御結界だし、


 氷の花にしよう。




 次は素材だ。


 ずっと使ってもらえるように丈夫なものにしたい。


 とは言え竜の鱗とかはそう簡単には手に入らない。


 俺が知っているなかで最も固いもの…


 ダイアモンドかな。


 どうにか土魔法で作れないだろうか。


 土魔法では物質を分解する錬金術のようなこともできる。


 泥から水だけぬいて一瞬で乾燥させる魔法を改造してたら気づいた。


 この世界の人はものが原子でできていることなんて知らないから気づいていないがな。


 確かあれって炭素でできてるんだよな。


 ということで、俺は木炭を集めてきた。


 そして土魔法で炭素だけ取り出す。


 が、できたのはただの炭だった。


 ダイヤと炭って構造が違うんだっけ。ダイヤは炭素原子が四面体を作るようにくっついてるって聞いたことがある気がする。


 ということで、今度はとりだした一つ一つの原子を四面体になるようにくっつけるイメージをくわえる。


 そんなんでできるのかよと思うかもしれないが、魔法は結構イメージが大切で、そのイメージが具体的かつ強固であればあるほど効果を発揮するのだ。集中して詠唱すれば効果があがるというのも原理はそういうことだろう。もちろん正確な魔力操作の方が重要だけどね。




 しばらく頑張ってたら、ついに五百円玉より一回り大きいくらいの大きさのダイアモンドが完成する。そしてその上に百円玉くらいの大きさの魔法陣を書き込んだあと、その魔法陣を覆うようにまたダイアモンドを作っていき、最後に魔法陣を破壊しないように変形させて花形にした。


 あとは普通の髪留めに接続するだけだ。


 髪留めの部分はうちの食器から拝借した銀でつくった。


 スプーンが一本くらい消えててもばれないだろう。


 なかなかいい出来だ。当日に渡すのが楽しみだな。




 当日もなにかしたいな。


 料理でもふるまおうか。


 前世のスイーツでも作ったら喜んでくれるかな。




 ということで、俺はプリンを作ることにした。


 まずは材料を集める。


 確か牛乳と卵と砂糖で作れたはずだ。


 どれもこの村では高級品であるが手に入らないこともない。


 セーラに相談してみよう。




「母さん、ほしいものがあるのですが」




「あらロエル、珍しいわね。


 いいわよ、何でも言って」




「はい、卵と牛乳と砂糖なのですが」




「料理でもするの?」




「はい、イアの誕生日にふるまおうかと」




「いいわね。お母さんも協力するわ。


 なんでも言ってちょうだい!」




 そしてセーラに材料を買ってきてもらった。


 この世界の人の口に合うか分からないので試作品を作ってみる。


 まず、材料を全て大きめの器にいれて風魔法でかき混ぜる。


 その後それを三つのコップに移す。


 そして火魔法と水魔法を別々に発動させて水蒸気を作り、それをコップにあて続けて蒸す。


 待つこと十分、固まってきたら氷魔法で冷やす。


 最後に火魔法を砂糖にあてて作ったカラメルをかけてプリンの完成だ。


 セーラに試食してもらった。




「おいしいわ!」




 よかった、この世界の人の口にも合うようだ。




「ところで、どこでレシピを知ったの?」




 まずい、それを考えていなかった。




「…えっと、何かの本で読んだ気がします」




「へ~でもそんな本うちにあったかしら」




「うちの本じゃないかもしれません」




 あとは当日の朝にでも作ればいいだろう。




 そして当日がやってきた。


 イアの誕生日パーティは当然イアの家で行われる。


 俺は少し早くイアの家に行って準備を手伝いつつ台所を借りてプリンをつくった。


 ついでに余った牛乳から生クリームも作ってみた。


 そして氷魔法で即席冷蔵庫をつくって保管する。




 パーティが始まった。




「イリアーナの誕生日を祝って!


 かんぱーい!」




 イリアーナというのはイアの本名だ。 


 メインディッシュを食べ終わり、俺は満を持してプリンをふるまった。




「俺がつくったプリンという食べ物なんだけど口に合うとうれしい」




「ロエルがつくったの!?


 本当にロエルはなんでもできるねぇ」




 そしてイアは一口食べた。


 何も言わないが表情を見ればわかる。


 口に合ってなによりだ。




「皆さんの分も用意しましたのでぜひお食べください」




 イアの両親にも差し出す。




「あら、ありがとう。いただくわ~」




「ロエル君の料理かうまそうだな」




 プリンはイアの両親にも絶賛された。


 これなら他の地球の料理もいけそうだな。


 料理店とか開けそうだ。




 プレゼントを渡す時がやってきた。


 イアの両親はイアにネックレスを与えていた。


 かぶらなくてよかった。




「俺からはこれを贈る」




 俺はイアに髪留めを差し出した。




「わーきれい!こんな高そうなのいいの?」




「材料からほぼ全て手作りだから金額は気にしないでいい」




「これも手作りなんだ!」




 そしてイアは早速自分の髪につけた。




「どう?似合ってる?」




「ああ、似合ってるよ。


 それにはちょっと仕掛けがあってね。


 魔力を込めると防御結界が発動するようになってるんだ。


 緊急時もそれがイアを守ってくれる」




「…本当にすごいの作ったね」




 こうして、イアの誕生日パーティも終わった。


 次の日からイアはずっと髪留めをつけてくれた。

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