第十九話 とある雪の日
ある日、俺は目を覚ましていつものように朝の筋トレをするべく木刀を握って外へ向かった。
まだ外は暗い。
そこで俺は見慣れない光景に驚く。
地面が真っ白にそまっていたのだ。
きっと夜の間に雪が降ったのだろう。
この村では雪は頻繁に降るわけではないが降らないわけでもない。
去年も雪が積もって村人総出で雪かきした覚えがある。
なんだか雪が積もってるのを見るとテンションがあがる。
前世では道路を歩きにくくするだけの邪魔な存在だと考えていたが、この体はまだ幼いということだろう。
俺は雪をキュッキュと踏みしめながらランニングを開始した。
雪が積もった街並みというのも新鮮でいいね。
なんだか前世に修学旅行で行った東北を思い出す。
それと同時に嫌な記憶もよみがえってきそうなのでこれ以上思い出すのはやめよう。
しばらくすると、最近通っている丘に到着した。
イアとの待ち合わせ場所にもしているあの丘だ。
そして、いつものように素振りをしようと木刀をかまえたところで、先客がいることに気が付いた。
赤いショートヘアの女の子が素振りをしていたのだ。
あんな子村にいたっけなと思いながら見つめていると向こうもこちらに気付いたようで、
「あら、あなたの場所だったかしら。
ごめんなさいね。今退くから」
と声をかけてきた。
「いえいえ、別に俺の私有地というわけではないのでお構いなく続けてください」
「あら、そう」
そしてまた素振りを再開したので俺も開始する。
しばらく無言で続けていたら、また声をかけてきた。
「あなた、見た目の割にいい腕してるじゃない。
もしかしてどこかの貴族の子?」
「いえ、俺は普通の平民の子ですよ」
「ふ~ん。ねえ、ちょっと手合わせしてみない?」
「突然ですね」
「ちょっと同い年くらいの強い子に興味があるの」
「まあ俺でよければいいですよ」
「よし、決まりね」
そして彼女は俺の正面に立った。
「私はフレイシア。あなたは?」
「俺はロクスウェルです」
「なるほど、あなたが……
相手を気絶させるか降参させたら勝ちね。
じゃあ、いくわよ」
フレイシアは、木刀を上段に構えてつっこんできた。
俺は自分の木刀を横に傾けて防ぐ。
腕にすごい圧力がかかった。
女の子とは思えない腕力だ。
だが、俺も伊達に鍛えているわけではない。
俺の木刀がフレイシアの木刀をはじいた。
そしてそのままの流れで右上から切りつけようとするが、フレイシアはバックステップで回避し、今度は木刀で突いてきた。
俺はそれを右に跳んで回避したあと、背中を下から切り上げようとしたが、バックターンをしたフレイシアの木刀に受け止められてしまう。
一瞬の膠着の後、互いにバックステップをして距離をとった。仕切り直しだ。
「なかなかやるわね」
「まあ一応鍛えてますからね」
「ところで、あなたは魔法が上手だと知人に聞いたのだけれど、使わないの?」
俺も有名になったものだな~
「だって、剣の戦いで魔法を使ったらせこくないですか?」
「そんなの気にしないでいいわよ。
私は本気のあなたと戦いたいの。
私も本気でやるからあなたも本気でやって」
そしてまたフレイシアが突っ込んできた。
さっきより剣速が速く、よけづらい。
ちょっとずつ被弾も増えてきた。
フレイシアもああ言ってたし、魔法つかうか。
俺は木刀を投げつけてフレイシアが驚き怯んでいるうちに風魔法で吹っ飛ばした。
そして起き上がる隙も与えず近くの雪を集めて巨大雪玉にしたものをぶつけた。
ばっさーーーん!!
フレイシアが雪に埋まってしまった。
しばらく待ってもなかなか出てこない。
あれ?これやばくね?
俺はあわてて雪を風魔法でどかしてフレイシアを掘り出した。
案の定フレイシアは気絶していた。
中位回復魔法をかけて、周囲を火魔法で温めつつフレイシアが起きるのを待つ。
やがて、朝日が昇り始めた頃、フレイシアは起きた。
そして状況を理解していないフレイシアに声をかける。
「とりあえず俺の勝ちでいいかな?」
フレイシアはしばらくきょとんとしていたがようやく状況を思い出したようだ。
「はっ! そうだ、あの時!
あなた! 魔法があんな威力なんて聞いてないわよ!
せ、せこいわ!」
「だから俺は言いましたよ。
魔法をつかったらせこくないかと。
それでも使えと言ったのはあなたですよ」
「でも! さすがにあんなのは!
はあ、もういいわ。
たしかに知人が言ってた通りの魔法使いね」
「俺はその知人になんて言われてるんですか?」
「知人を守るために内緒にしておくわ。
ただ一つだけ言えるとしたら、容赦のないやつだということね」
俺の知らないところで俺はどんだけぼろくそに言われてんだ。
というか俺をぼろくそに言ってる知人ってだれだよ。
まあだいたい予想はついてるけどな。
となるとこいつも貴族である可能性が高いな。
後で問題になるとめんどいからここで言っておくか。
「あの、あなたってもしかして貴族ですか?
だとしたら後で問題にしたりとかしないでほしいです」
「ふふ、私はどっかの騎士ちゃまみたいなことはしないわよ。安心して」
ふむ、知人はあいつで確定だな。
次に決闘するときにぼこぼこにしてやろう。
そしてフレイシアとは別れた。
その日の残りはイアと雪遊びをした。
魔法で超巨大雪だるまをつくったり、ア〇雪みたいな城を作ったりして遊んだ。
いつものごとくラインが決闘を仕掛けてきたので、雪の弾幕を顔面にあて続けてぼこぼこにしてやった。
そして、その日の夜のこと。
「ねえ、ダラスとロエルに大事な話があるの」
突然セーラがかしこまった様子で話した。
もしやフレイシアが今朝のことを問題にしたのかと俺は警戒したが、その内容は予想外なものだった。
「なんと、私、妊娠しました」
ダラスと俺は一瞬ポカンとして、その言葉を理解し大喜びした。
「よくやった! セーラ!」
とダラス。
「俺に弟か妹ができるんですね!」
と俺。
そうだよな。俺が五歳になって解禁したんだもんな。
ヤればできるよな。
こうして一日が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます