第十五話 素顔

 今日も、イアと約束をしたので待ち合わせ場所の丘に行く。


 丘に到着したが、まだイアは来ていなかったので、魔法の練習をして時間をつぶした。


 だが、待てども待てどもイアは来なかった。


 この世界には時計がないので、多少遅れることはあるが、それにしても遅すぎる。


 太陽が30度ぐらいの位置になったら集合という予定だったのに太陽が45度のところまで登ってもイアはこなかった。さすがに一時間遅れるのはおかしい。


 何かあったのかもしれないと思い、イアの家に迎えに行くことにした。




 イアの家に向かう途中、少し不愉快な甲高い声が聞こえてきた。




「やっと追い詰めたぞ化け物」




「化け物は村からでてけー」




「化け物は衛兵に討伐されろー」




 いじめである。 


 俺と同い年位の女の子が同い年位の男女三名に石を投げられていた。


 ああいうのを見ると前世を思い出して本当に腹立つ。


 俺は女の子を助けることにした。




 まずは土魔法を使って女の子の前に壁を作り、石を防ぐ。


 いじめっ子が驚いて石を投げるのをやめたので、俺はいじめっ子と女の子の間に入った。




「おい!何化け物をかばってんだよ」




 そこのちびデブ君、


 そんなに化け物化け物言ったら本当に化け物なのか不安になるじゃないか。


 まあ、この抵抗もしないうずくまってる女の子が化け物とは思えないし、化け物だったとしても無害そうだがな。




「なんだ?英雄気取りか?」




 あののっぽ顔がムカつくな




「なんかしゃべったらどぉ~お~?


 あっもしかしてとっさに助けにはいったけど~私たちが怖くなっちゃった感じぃ~?


 ダサすぎてマジ受けるんですけど~」




 あのくそガキ四歳くらいのくせにギャルみたいな話し方しやがって…


 その喋り方は俺のトラウマをえぐるからやめろ!




「はは、少々君たちの行動が不愉快でね。


 目障りだから止めさせてもらったよ。」




 俺もちょっと言い返す。




「このクソガキが、


 なめてんじゃねーぞ!」




 ちびデブが石を投げてくる。


 俺は風魔法でそれを撃ち返した。


 見事に石はちびデブの顔にあたったが、加減したのでケガはない。




「ふふっ低俗な行動をする人は頭も低俗なようで、沸点が低いですね。」




 俺はさらにあおった。


 ちょっと大人げないと自分でも思う。




「このやろう…!こっちの方が人数が多いってのを分かってるのか?」




 そしてちびデブ、のっぽ、ちびギャルは俺に総攻撃を仕掛けた。


 俺は飛んでくる石の悉くを風魔法でつかまえて、自分の周囲に浮かせた。


 そしてその中から三発だけ撃って三人を転ばせる。


 そして余った石を三人に向けて、




「まだ…やる?」




 と威嚇すると、




「くそ、覚えてろよ!」


「お前なんて、


 アニキにかかればいちころなんだからな!」


「あっ待ってよ~~~!」




 と捨て台詞を残して逃げて行った。


 ふん、雑魚が。




 俺は振り向いて女の子の無事を確認する。


 サラサラの薄い水色の髪をもったかわいい子だ。




「だいじょ…」




「見ないで!!」




 …え?


 ちょっとお兄さんショックだな~


 でも、ケガがひどいし回復魔法くらいかけないと。


 ということで俺は回復魔法を使おうと手をのばす。




「見ないでって言ってるでしょ!」




 突然女の子が振り向いて俺の手を振り払った。


 ここで俺は気づく。


 彼女が握りしめているものに。


 それは、布袋だった。




「…もしかして、イア?」




 俺がそう問いかけると、彼女は号泣し始めた。


 相当俺に素顔を見られたくなかったようだ。


 やばいやばいどうしよう?


 こういうときなんて声かければいいんだよ。


 ええっとたしかゲームでは…


 俺はレ〇プされたヒロインに対する主人公の行動を思い出した。


 そうだ、こういう時は…




 俺はイアを抱きしめた。




 …血迷ったか!?俺!?


 だが、今更引けない。


 もうどうにでもなれ!




「…ロエルは、私のこと怖くないの?」




「…友達が怖いわけないだろ。」




「たとえ私が異種族でも?」




 ここで俺は彼女の耳が長いことに気付いた。


 なるほどエルフか。


 本には書いてあったが見るのは初めてだ。


 たしかかなり珍しい種族なんだよな。




「逆にこの俺がエルフを怖がるとでも?


 魔獣を瞬殺できるこの俺が。


 イアはもっと顔をみんなに見せるべきだ。


 そうすればみんな怖くないってわかってくれる。


 イアの顔より布袋の方がよっぽど不気味だぞ。」




 イアは一瞬泣き止んで目を丸くしたあと、また泣き出した。


 イアがあまりに大声で泣くものだから視線がささる。


 やばい、これではまるで俺が泣かせたみたいじゃないか!




「…ごめん…顔を見られたら、ロエルにも嫌われちゃうと思ってた。


 でも…こんな扱い…初めてで…」




 だから頑なに布袋を脱がなかったのか。




「ふふ、俺が友達を顔で選ぶような奴に見えたのか。心外だな。」




 俺が軽口をいうと、イアは微笑んだ。


 うん、やっぱ女の子の笑顔はすてきだね。




 その日ののこりは魔法の練習をした。


 家に帰って、ダラスに話を聞いたところ、どうもイアは森に捨てられていたらしい。


 イアの両親はエルフじゃなかったしな。


 俺が産まれたころにイアの父親のエリックによって発見されたが、村人のほとんどが異種族は災いのもとになると捨ててくるように言ったらしい。


 だが、エリックはそれらの意見を押し切った。


 妻が病弱で子供が作れなかったというのもあるだろう。


 エリックはイアを養子にした。


 その話をしたあと、ダラスは、


 「俺は保護派だったんだからな!」


 と必死に弁明していた。


 大丈夫、俺は信じてるよ。




 翌日、また丘に行くと、すでにイアがいた。


 今日は布袋をかぶっていなかった。


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