第十一話 森の中で

 俺は四歳になった。


 そろそろ、庭以外の外の世界に興味が出てきた。


 たまにダラスとセーラに連れられて外に出ることはあったが、一人で外に出たことはなかった。




「母さん、ちょっと外に遊びに行ってもいいですか?」




「あ、じゃあまっててすぐ支度するから。」




 そう言って母さんはついてこようとする。




「いえ、今日は一人で外に行ってみたいのです。」




「そんなわけにはいきません。私もいっしょに行きます。」




 本当に過保護だな。


 四歳を一人で外に行かせるわけないだろと思うかもしれないが、この世界では六歳から働き始めるのだ。


 普通に他の家の同年代の子共たちが子供だけで遊んでいるのも母さんに連れられて買い物に行った時に見た。




「母さん、僕はもう四歳ですよ。


 それに他の家の子供も子供だけで遊んでいるじゃないですか。」




「でも…心配だわ」




「母さん、僕が上位魔法を使えるのは知っているでしょう。


 僕はもしかしたらお城の魔法師と同じくらい強いかもしれないんですよ。


 だから大丈夫です。


 それに、もし怪我をしたとしても母さんが教えてくれた回復魔法があります。」




「それもそうなんだけれど。」




「あまり遠くには行きませんし、ご飯の時間になったら帰ってきます。」




「本当に?」




「神に誓って」




「まあ、そろそろ家に閉じ込めておくのもよくないものね。


 許すわ。でも、一つだけ。


 息子だからという贔屓目を除いてもロエルはかなり優秀よ。


 上位魔法を使える魔法使いというのは一人いるだけで一歩兵隊を退けられるの。


 だから、あなたを戦力として欲しがる人はたくさん現れる。


 しかもあなたは子供で魔法以外の戦闘力は低いからさらいやすい。


 貴族どころが国家が動く可能性もあるわ。


 絶対に怪しい人について行ったりしちゃだめよ。」




 なるほど、セーラとダラスはそれを心配していたのか。


 たしかにそうなる可能性は盲点だった。


 あまり人前で大魔法ぶっぱはしない方がよさそうだ。


 少なくとも何か権力的に強力な後ろ盾ができるまでは。




「はい!気を付けます!」




「じゃあ、いってらっしゃい!」




「いってきます!」




 ___




 俺は外に出た。


 今日は自由に動ける。


 シャバの空気はおいしいぜ。


 まずはどこに行こうか…




(村の中はダラスたちと一通りまわったからな~


 そうだな~転生したときの森へ行こうかな。


 何か面白い植物とかあるかもしれないし。)




 ということで、森を目指して転生直後にセーラに抱かれて通った道を歩く。


 あの時すごく長く感じた道は、割と短く、4,5分で森に到着した。


 自分の成長にちょっと感動。




 ちょうど俺が転生した地点に到着した。


 いや~全てはここから始まったのか。


 あの時はいきなり人生つみやんと思ってたな。




「・・・・・て・・・」




 ああ、なんか感慨深いね。




「・・・・けて・・・」




 うーんなんか聞こえる気がする。


 もしかして今更召喚主がかたりかけてたりして。




「・・・たすけて!・・・」




 はっ!違う!


 誰かが助けを求めてるんだ!


 でも一体どこから?




「きゃ~~~~!!!」




 俺がキョロキョロしてると悲鳴が聞こえてきた。


 それのおかげでだいたいの位置はわかった。


 俺は、声が聞こえてきた方向へ全力ダッシュする。


 邪魔な木々を風魔法で吹き飛ばしながら進んでいくと、しりもちをついている人影がみえてきた。


 その横にいる人狼型の大きな魔物も。


 人影はなぜか布袋をかぶっていたため、顔や性別はわからなかったが、体の大きさから俺と同い年位の子供であることは分かった。


 魔物が胸を膨らませて、口に魔力を集め、いかにもブレスを吐きそうなポーズをとる。


 今から攻撃魔法を構築しても着弾前に奴がブレスを吐くだろう。




(くそ、間に合わないか!?)




 いや、あきらめるな!


 もっと、もっと速くなるんだ!




 すると世界が遅くなったような気がし、不思議なことが起きた。


 俺の腕に何本もの青い線が現れると同時に、俺の魔力が爆発的に増加したのだ。


 そして、俺の『速くなりたい』という願いに応えるように魔力が動き、俺のスピードが何倍にも増加する。


 多分今の俺なら水球を撃った後に追い抜いてまわりこんでキャッチすることができるだろう。


 それぐらいのスピードだ。


 遂にやつがブレスを吐きはじめた。




(間に合え~~~!!)




 間一髪、ブレスが当たる前に子供を抱えることに成功した。


 そのまんま奥の茂みに突っ込む。




 ズドーー-ン!!!




「…っいてて」




 腕の中の子供を確認してみると、ぐったりしていた。




「だいじょうぶか!?」




 魔物の攻撃はよけれても俺が突っ込んだ衝撃で死なれてしまったら意味がない。


 むしろ俺が殺した感があっていやだ。




「…っうう…」




 布袋で顔は見えないけど息はあるようだ。


 よかった。




 ヴゥゥ…




 唸り声が聞こえてはっと顔をあげると、魔物がこちらをにらみつけていた。


 狩りを邪魔されて、かなりご立腹のようだ。


 俺も立ち上がり、両手に魔力を集めて戦闘態勢にはいる。


 青い線はもう消えていた。


 ほんと何だったんだろう?




 また魔物がブレスのチャージにはいった。


 俺は当然空気を読んで待ってやったりなどしない。




「今度は止めさせてもらうよ。」




 俺は高水圧ビームをはなった。


 準備もこっちのほうが早くしてたし距離もちかいので今度は奴がブレスを吐く前に着弾する。


 そして、魔物の左腕を吹き飛ばした。




 があぁぁ!!




 魔物は絶叫をあげて憎々し気にこちらをにらみつける。


 俺は容赦なく魔物の足元の地面を陥没させて落とした後、地面ごと魔物を凍らせた。


 身動きがとれなくなって魔物がじたばた暴れだす。


 俺はその顔面にまたまた容赦なく岩石を連打する。


 しばらく続けていると魔物が動かなくなったので最後に一発大きいのを打ち込んでからやめた。


 近寄って確認すると、魔物の顔面はぐちゃぐちゃになっていて、見るも無残だった。




 よくよく考えてみると、あのうっかり木端微塵にしたウサギを含めなければこれが俺の初陣じゃないか。

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