第九話 親にばれた
事故は唐突に起きた。
俺は三歳になり、親の手伝いをするようになっていた。
義務教育などないこの村では、早くて五歳から働き始める人もいるので、そろそろ手伝いを通して仕事を覚えないといけないのだ。
その日俺は、家の裏の薬草畑に水をあげる手伝いをしていた。
セーラが薬師の仕事を再開したため、結構広い畑があった。
井戸から水を汲んでは畑に水を撒く。
井戸と畑をなんども往復しているうちに、だんだんめんどくさくなってきた。
そこで、セーラが見てないことを確認して、魔法で水やりすることにした。
毎日の練習が功をなし、このころには四節くらいまでの魔法なら無詠唱でもノータイムで使えるようになっていた。
最初は順調だった。
だが、少し予想外なことが起きた。
突然小さなウサギ型の魔獣が飛び出してきたのだ。
初めて見る魔獣に俺はすごく驚いた。
故に、過剰防御してしまった。
八節で構成された上位の水魔法が畑の中で炸裂する。
ズバババー―――ン!!!!
俺の手から放たれた高水圧ビームは、魔獣を木端微塵にして、そのまま畑をえぐりながら突き進み家の壁に穴をあけた。
俺は放心した。
流石にこれはごまかせない。
家のなかからセーラが走ってくるのが見える。
さあ、どう言い訳をしようか。
「ロエル!大丈夫!?なにがあったの!?もしかして魔獣!?」
セーラは魔獣を警戒して周囲をみわたす。
だが、当然そんなものはいない。
俺がやったのだから。
「・・・・・」
俺は言い訳が見つからず、黙って俯いていた。
すると、セーラは畑のえぐられ方からついに状況を察したようだ。
「…もしかして、ロエルがやったの?」
俺はもう言い逃れできないと判断し、素直に謝ることにした。
こういう時はとにかく早く謝った方がいいのだ。
「…ごめんなさい。」
セーラは固まっている。
そりゃそうだ。
三歳の息子が上位魔法をつかったら誰だってこうなる。
普通八節以上で構成された上位魔法を使えるのは王宮魔術師とかなのだ。
五節以上の中位魔法でさえ使えたら村最高の魔法使いを名乗れる。
今日にでも悪魔祓いにいかされたり、最悪悪魔の子として捨てられるかもしれない。
「…天才よ…」
えっ?
「うちの子は天才だわ!!
すごいじゃない、ロエル!!
ダラスへの報告がたのしみだわ!!」
ちょうどその時、遠くからダラスが走ってくるのが見えた。
「セーラ!!うちからなにかすごい音がしたがだいじょうぶか!?」
「あっ!聞いてよダラス!!ロエルが上位魔法をつかったのよ!!」
「えっ?上位魔法をロエルが…?
おいおい何の冗談だよ…
だってロエルはまだ三歳だぞ?」
「信じてないわね。
じゃあこの状況をどう説明するのよ!?」
ダラスは一直線にえぐられた畑を見て、家に空いた穴を見て、最後にその起点である俺を見た。
「…え?まじで?」
俺は静かにうなずいた。
「えっ…詠唱とかはどうやって知ったんだよ。」
「ごめんなさい。父さんの本を勝手に読んでしまいました。」
「勝手に読んだって…まだ文字も教えてないだろ。」
「本を読み聞かせてもらった時に覚えました。」
「…お前天才だな」
「父さんの子ですから」
ダラスは下を向いて頭を押さえてから、また顔をあげて俺を見る。
「とりあえず状況は理解した。
だが、分かっていると思うがその力は強大だ。
気楽に使うと今みたいなことが起こる。
けが人も出るかもしれない。」
「はい。わかっています。
今後は自重します。」
「ああ、それが分かってるなら大丈夫だ。
…俺は三歳に何を言ってるんだろうな。」
…ははは
こうして俺が魔法を使えることが両親にばれてしまった。
今回は天才ということで片付いたからよかったが、しばらくは地味な魔法を鍛えることにした。
地下研究所はばれなかった。
さすがに家の下に怪しい研究所が作られていることが知られたら本気で悪魔だと思われかねない。
研究所のセキュリティをあげようと思った。
翌日、俺は土魔法を使って壁を修復した。
あの後騒ぎを聞きつけたご近所さんに俺が魔法を使えることが知れ渡ってしまったらしく、たくさんのギャラリーが集まっていた。
すごくやりにくかった。
でも、ばれたことでいいこともあった。
セーラに回復魔法を教えてもらえることになったのだ。
回復魔法は教会で高額な寄付をしないと教えてもらえないらしく、『魔法 基礎』には書かれていなかった。
その回復魔法を知っているセーラは何者なのだろう。
まあだいたい見当はついている。
たぶん、駆け落ちした貴族だ。
おそらくダラスもだ。
二人とも他の家庭に比べ、やたら作法がしっかりしているのだ。
あと、ダラスの仕事は狩人なのだが、他の人に比べ剣術の型を知っているように思える。
また、この家は村の中ではかなり裕福なのだ。
たぶん騎士爵の屋敷の次くらいに。
そうでないと本なんて買えない。
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