第二話 魔法は本当にあったんだ!!

 あの後俺は、母親に抱かれて無事に家まで行き、父親らしき男にも顔合わせした。


 父親は金髪で体も鍛え抜かれており、いかにも騎士様といった感じのイケメンだった。


 その後は長々と母親に話しかけられたのだが、意味は分からなかった。まあ多分声や表情からして怒っていたように思われる。


 ちなみに元の体の持ち主はどうなったのか? とかなんであんな森の中にいたのか? とかは考えないことにした。


 どうせ考えてもわからないし、無駄に罪悪感に苛まれたくない。だいたいこれは事故だ。俺も巻き込まれたのだ。きっと体のもとの持ち主も許してくれるだろう。まあ両親はかわいそうだと思うけど諦めてもらいたい。言わなきゃばれないけどね。


 そんなかんやで俺が転生してから一週間が経過した。相変わらず両親の話す内容は分からないがいくつか分かったこともある。


 まず、どうやら俺の名前は「ロエル」というらしい。その根拠は両親が俺に対し最も頻繁に使う言葉だからだ。食事や下の世話のたんびにその単語を使ってくるので覚えた。まあもしかしたら坊やとか君みたいな意味かもしれないけど。


 もう一つ分かったことは、どうやらこの世界の文明レベルは日本より低いらしい。電気、水道、ガスはなく、毎日井戸に水を汲みに行ったり、薪を使って料理したりしていた。


 まあそんなことはどうでもよくて、今俺は大きな問題に直面している。


 なのだ。


 俺は赤ちゃんで先日脱走した前科(俺のじゃなくて体の前の持ち主のだがな!)があるので、家の中でもあまり自由に動けない。親が見てないときはずっと柵のついたベビーベッドの中だ。


 赤ちゃんなんだからどうせほぼ一日中寝てるだろと思うかもしれないが、なぜかこの体、全然眠くならないのだ。


 夜はちゃんと眠れるので不眠症なわけではないが日中は目が冴えまくっている。前世では授業中居眠りとかしてたのに全然昼寝できない。


 この世界の赤ちゃんみんながそうなのか、転生の所為でおかしくなったのかはわからないが、とにかく俺は自由にうごけず、眠ることもできない日々に退屈していた。


(ああ暇だなあ~)


 俺はベッドの上で転がって左端から右端へ移動する。俺の重みで少しベッドが右に傾く。


(スマホが恋しいぜ~)


 今度は左端へ移動する。ベッドが左に傾く。


(せめて小説ぐらいよこせよ。まあ文字読めないけど)


 また右端へ移動する。再びベッドが右に傾く。


(もうこんな日々いやや~~!)


 俺はベッドの上で左右に激しく転がる。ベッドもそれに合わせて激しく揺れる。


 ガタッ (えっ?)


 遂にベッドが揺れに耐えかねて倒れてしまった。急に体におそいかかる浮遊感。


(わぎゃ~~~!)


 俺は宙に投げ出され、

 ドギャっ

 間もなく、俺は床にキスすることになった。

 バタバタバタッ

 きっと音が聞こえたのだろう。別の部屋から母さんが駆けつける音が聞こえる。

 バタンッ!

 勢いよくドアが開き、母さんが現れた!


「zjdzkpgv!?ロエル!?」


 前半は意味が分からなかったが「大丈夫!?」とでもいったのだろう。とりあえず俺は母さんを安心させるため、手をあげて無事をしらせようとした。


 だが、俺は頭を押さえていた自分の手を見てギョッとする。なんと、血でぬれていたのである。きっとベッドの柵の角にでもあたったのだろう。おでこから出血していた。それを見た母さんの顔は青を通り越して白くなった。


 突然母さんが抱き着いてきた。そして、俺の頭に手を当ててなにかを口ずさみ始めた。


(もしや、イタイノのイタイのとんでいけとかしてるんじゃあるまいな。擦り傷ならまだしもこのレベルのけがならその前に止血だろ)


 そんな俺のツッコミを知らず、母さんはその作業を続ける。


 そしてだいたい三十秒後、その作業がひと段落ついたのか母さんは最後に大きな声で何かをいった。


 やっと終わったかと俺が思った時、ちょっと信じられないことが起こった。なんと俺の頭が光りだしたのである。正確にはおでこの傷口が。そして、時間がたつにつれて痛みがなくなっていくのがかんじられた。


 光が収まった時には、おでこの傷はまるで時間が巻き戻ったのかのように完治していた。驚きとなんともいえない高揚感が俺の心中をうめつくす。


(これって…魔法…だよな…!?)


 異世界転生が起こるのだ。魔法があっても何ら不思議ではない。転生直後も期待はしていた。だが、この一週間両親が魔法を使うことがなかったため、この世界には魔法がないものと思っていた。


 だが今実際に魔法は使われた。この世界には魔法があるのだ! なんで今まで使わなかったのかは分からない。きっと結構難しい技術なのだろう。もしくは俺が気付いていないだけで実は結構使っていたのかもしれない。


 俺は異世界ものの定番ともいえる魔法の存在にひどく興奮していた。そしてあることを決める。


(このひまな幼年期の時間は魔法の訓練につかおう)

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