第45話 とんだトラブル

 う~ん……来ない。弁当の配達が来ない。

 数日前に予約した電話では、12時にいろどり中央公園の駐車場と伝えたはずなのだが。


「きませんね、お弁当」


「うむ」


「私もう、お腹ペコペコです」


「う、ううむ」


 受取り班として、俺と小枝はずっと待機しているのだが……一向に現れる気配のない弁当屋。ほかの生徒たちもそろそろ腹を空かせている頃合いだし、いい加減に来てもらわないと、今後の日程に支障をきたしてしまう。

 あまり催促はしたくはないのだが、致し方あるまい。俺は遠足の弁当を依頼したお店へ電話した。


「すいません、名桜なざくら高校のお弁当の件で。はい、配達をお願いしたんですが、まだ届いてなくて。はい、はい……ええ!?」


 俺は青ざめた。なんと、弁当の注文が明日となっていたのだ。


「安藤君、どうかなさいましたか?」


「ちょっと、先生たち呼んでくる。小枝は少し待っててくれ」


♢♢♢


 すぐさま、駐車場にて教諭2名と生徒会メンバーで緊急会議が行われる。


「今からどっかに注文だと間に合わないのか?」(三科)


「しかし、30個以上ですからね。今からですと、なかなか厳しいかもしれません」(南田)


「困りましたねぇ、みんな楽しみにしていますし」(結原)


 みんなであれこれと解決案を模索するが、なかなか前へ進まない。

 注文を担当したのは会計である俺。すべて俺の責任だ。いったいどうすればいいのか。


「生徒会メンバーの不手際は私の責任です。私が生徒のみんなに事態を説明します」(舘林)


「まぁまぁ、舘林さん。まだ解決策があるかもしれないし、そう結論を焦らないで」(結原)


「しかしですね、先生。このままではらちがあきません。この事態にどう収拾をつけましょう?」(舘林)


「そうですよねぇ」(結原)


 結原教諭に困った顔をさせてしまった。

 本当に参ったな、俺としたことがとんだ失態。穴があったら入りたいとは、まさにこのことか。


「安藤君、少しよろしいですか?」


「え、ああ」


 小枝がこっそり耳打ちをしてきて、自分の携帯の画面を見せる。携帯に写っていた画像、それはバスで見かけた精肉店を撮った画像だった。


「ここなんかどうでしょう? 機材や材料は即日対応可って書いてますし、電話番号も写ってますよ」


「お前、いつの間にこんな写真……」


「えへへ、ついつい食べたくてパシャッちゃいました。ここなら今からでも間に合うかもしれませんよ」


「そうだな。こうなれば、やぶれかぶれだ。ダメ元でやってみよう」


 俺はその場にいるみんなに、小枝による提案を話した。


「よし、小枝の案でいくぞ」


 三科教諭がすぐさま受諾した。


「え? いいんですか? 支払いとかもあるんですよ。弁当代の費用だけで足りるかどうか」


「大人を甘く見てはいかんなぁ、安藤。いざという時の為にクレジットカードというものがある。足が出た分は教師として責任取ってやる」


「せ、先生……」


 決め顔のサムズアップが若干イラつくが、初めてこの先生が頼りに思えたかもしれない瞬間だった。

 舘林さんがこの代替案にいささか不満げな表情を浮かべていたが、とにもかくにも今できることをしなければいけない。俺はすぐさま小枝の携帯に写っている精肉店へ電話をかけた。

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