第30話 困りごと
ある日の朝活でのこと。本日はシェフ川岡がマグロ丼を振舞うと張り切っており、彼の父が経営する店へと、準備されたクーラーボックスを取りに行く。メンバーは川岡、茶髪の高江洲、俺の三人だ。
学校から数キロほど離れたあいつの店を初めて見たのも束の間、重たいクーラーボックスを肩下げ紐で持ち、なにやら会話をしている二人の
「しかし、マグロ丼とは豪勢だな。何かいいことでもあったのか? あ、お菓子代350円の昇格記念とか?」
そうそう、先週繰り広げられていたお菓子代論争後……職員の話し合いでは、拍子抜けするほどあっさり350円の承認が下りたらしい。いや、むしろ他の教員からは安すぎるのでは? という声も上がったそうだが、負けず嫌いの仁科がそこは譲るはずもなかったそうな。
「あ、いやいや……実は俺のおじさんがマグロ漁船に乗っててさ、年に数回帰ってきた時のお土産なんだ。それでね」
「遠洋漁業の仕事してんのか。大変だな、お前のおじさん」
「年間通してほとんど会えないけど、おかげで魚のさばき方はだいぶ上達したし。もらった時は腕によりをかけて振舞わないと」
「みんなマジで喜ぶと思うぜ。うまいやつ頼むな」
「任せろよ。アンドレも頑張って仁科先生に打ち勝ったことだし、特別に大盛りにしちゃおっかな」
「だってよ、アンドレ……って、お~い? 聞いてるかぁ?」
「ぜぇ、ぜぇ」
こいつら数キログラムもあるクーラーボックスを持ちながら、よく平気でだべってられるよなぁ。
「ったく、相変わらずアンドレは体力ねぇーな~」
「あんなぁ、こっちだって必死なんだよ」
「頑張れ~、学校までもう少しだよ」
ヘトヘトな俺はやっとの思いで二人へついていく。重たいといえば、クーラーボックスもそうだが、今はそれよりももっと重たい困りごとが俺にのしかかっていることを思い出しそうだ。それは、あとでじっくり解決を図らねば。
♢♢♢
昼食時間、川岡の振舞ったマグロ丼は大好評であり、調理実習室はおおいに賑やかであった。豪華で美味しいメニューにみな幸せ顔。
特に目の前にいるあいつ……。
「う~ん♪ ごのひゃわらかさ、ちゃまりまふぇぬ~」
【う~ん♪ この柔らかさ、たまりません~】※訳
「だから、飲み込んでから喋れって」
小枝の幸せ顔を阻害するのは気が引けるが、はしたないのは良くないからな。
「あ……すいません。てへっ」
舌を出して誤魔化す小枝。
「それよりも、一つ相談があるんだがいいか?」
「ふぇ! 安藤君が私に相談事ですか!? これはついに私を頼りにしてくれたということですか?」
「そうではない、今の距離的にお前が一番近いというだけだ。本来ならもっと適任がいるはずだが、とりあえず意見として聞いておこうと思ってな」
「またまたご冗談を~」
「……話が逸れない内に言うが、その、『レク係』ってなんだ?」
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