第26話 ザッツ・雑用

 生徒会に入ってからはや数日が経過した。

 俺は生徒会の会計、小枝は書記の役職にいた。予算の状況把握など覚えることも多く、色々と面倒なのだが……。


「くそ、なんで俺がこんなことを」


 なんといったって雑用としてのこき使われ方が半端ない。生徒会長も担任の三科も事あるごとに呼び出しやがって。

 現に今もそうだ。先ほど職員室に届いたという段ボール……中身は図書委員会が購入した新入荷の本なのだが、早速それを図書室へ持って行けと三科から指示があったのだ。仕方なく俺はそれを台車に乗せ、廊下を歩く。


(まったく、就任早々こうもこき使われるとは)


 おまけに会長から、今回の図書購入の注文内容と納品確認もしておけとのお達し。あああ、また今日の貴重な勉強時間が奪われていく。


♢♢♢


「アンドレ君、わざわざ届けてくれたんだぁ。ありがとうね」


 図書室のカウンター席には例のモブ女子Bがいた。


「あっ! まさか、また内心で私のことをモブ女子Bとか呼んでないよね?」


「いや……そんなことないぞ。奥原」


 図星をつかれ少しギョッとする。こいつの名は奥原おくはら朋美ともみというらしい。高江洲にみんなの名前を覚えろと言われたので、ちゃんと言いつけを守る素晴らしい俺なのだ。


「ふふ、ならよろしい。言ってくれれば取りに行ったのに」


「担任が持って行けというから仕方なしだ。っていうかお前、図書委員なのな」


「うん。私、本読むの好きなんだ」


 俺は注文票や伝票などを照らし合わせながら、冊数や金額などに間違いがないか確認していく。


「これこれ! ようやく届いた~♪」


 奥原は嬉しそうに届いた本たちを確認している。


「これ最近話題のラノベでね、アニメ化も決まってるんだよ」


「ラノベ?」


「ライトノベルの略。若い層をターゲットにしたジャンルでね、アニメチックな内容や親しみやすい文章なんかが特徴なんだよ。でもでも、けっこう読み応えもあって満足できるし」


「ふ~ん、ライトなノベル……つまりは長編小説の簡易版か。よくもまぁ、そんな新しいものを色々と作るよな」


「図書室でも結構人気なんだよ? おかげで私は自分では買わないようなジャンルの物も注文できるし、いち早く読める特権もあるし」


「俺なら実用的な図書しくは面接対策用の難解図書をオススメするがな」


「……アンドレ君はラノベとか興味ない?」


「興味ないな。そんな嗜好品しこうひんみたいな本は時間の無駄だ」


「そんなこと……ないと思うけどな」


 どことなく声のトーンが落ちる奥原であった。


「いや、その、すまん。悪気があったわけじゃないんだ……俺はほら、勉強しかしてこなかったらかたよった考えになってるんだ」


「ううん、大丈夫。こっちこそ、ごめんね」


 しばし、気まずい沈黙が続く。


「それ、そんなに面白いのか?」


「え……う、うん! 話題沸騰中のラノベだよ! 控えめに言ってハズレなし!」


 急に元気になる奥原に俺は気圧けおされる。


「これ、今日届いたばっかだけどアンドレ君に一番のりを譲ってあげる!」


「いや、しかしだな……」


「やっぱり興味ないんだ……」


 涙ぐむ奥原。


「借りさせていただきます」


 まぁ、断れるはずもなく……貸出バーコードの作成手伝いを終え、さっそく新作ラノベ本を持ち帰ることになった俺であった。


 あああ……俺の勉強時間がさらに奪われていく~!!

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