第20話 和解

「……っ!」


 ガラガラガラ! っと勢いよく教室のドアを開けるなり、開口一番で謝罪を述べる……つもりだったのだが、クラス中から向けられる視線に俺はつい尻込みしてしまった。


「あ、その、なんというか」


 恐ろしいほどに静まりかえる教室内。勢いだけで来たことを後悔するほどに、先ほどまでの謝罪の決意はグラグラと揺らいでしまう。


「安藤君、ファイトですよ」


「わ、わかっている」


 小枝に背中を押してもらい、俺は深く息を吸い込む。


「さっきは悪かった! すまない!」


 これまで自分でも出したことのないほどの声と同時に、勢いよく頭を下げた。

 しーん……という言葉が文字化しそうなほどの重苦しい雰囲気。


「みなさん、安藤君を許していただけませんか? 私からもお願いします」


 うしろからひょこっと出てくる小枝がすかさずフォローするように頭を下げた。内なる心細さと彼女の健気けなげさから、不覚にも少しウルッときてしまう。


「許すもなにももう気にしてないよ。なぁ、みんな。」


 状況を理解したのか……クラスの良心である南田がそう呟き、その言葉にみんなも続く。


「そうだよ、アンドレ君も悪気があったわけじゃないもんね」(モブ女子B)


「気にすんなよアンドレ。それよりも今日こそ昼飯の手伝い頼むぜ」(山岡)


「うさ美も気にしてないぴょん。あ、でも朝活してないから、お昼代は300円徴収ぴょん」(うさぎ)


「みんな……」


 悪気わるぎだらけだった俺にみな好意的な励ましの言葉をかけてくれる。思えば、こんな優しくされたのは初めてかもしれない。ずっと蹴落とすか、蹴落とされるかの世界で生きてきたからな。

 てか、うさぎ……お前しっかりしてんなぁ。


「安藤君、もう一人残っていますよ」


「え? ああ、そうだったな」


 そんなムードの中、頬杖ほほづえをついて視線を合わせてくれない奴が一人。取っ組み合いまでして揉めた茶髪である。こいつはそう簡単には許してくれなさそうだ。

 重い気持ちを引きずるように、俺は茶髪の席へと歩み寄っていく。


「あの、あのだな……」


「アンドレのおかげで三科ちゃんにド突かれたんだけど?」


「え? ああ、目の前で見てたからわかる」


「つーかさぁ~、アンドレ。俺のこと茶髪呼びとかやめてくんない? そもそもみんなの名前覚えてるのかよ」


「えっと、小枝と南田と、モブ川岡と、モブ女子Bとうさぎと」


「モブ女子Bって私!?」(モブ女子B)


「うさぎじゃなくてうさ美ぴょん! うさぎで一括ひとくくりにしないで欲しいぴょん!」(うさぎ)


「俺の場合、モブいるか?」(川岡)


「ったくよぉ」(茶髪)


「す、すまん」


「とりあえずみんなの名前から覚えろよな」


「わかった。覚える」


 すると茶髪は俺の言葉に満足したのか、ニカッと笑いかける。


高江洲たかえずそうだ。もう揉め事は勘弁だぜ」


 そう言うと、高江洲は俺の肩に手を回す。細身のくせに、相変わらずの剛力である。

 ふぅ……これでどうにか全員に許してもらえたようだ。ふと小枝の方を見ると、こちらを見て嬉しそうに微笑んだ。俺もそれに笑みを返す。


「用事が終わったならさっさと席つけ。授業を再開したいんだが?」(三科)


「あ、すいません」


 担任の三科がぼやいた。呆れ顔をしているが、少しだけ口角が上がっているようにも見える。

 なんだか、もう少しだけこのクラスで頑張っていけそうだ。

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