第19話 反省

「そんなことがあったんですね……」


「弁解するつもりはない。だけど、すべて上手くいってたことが、違う方向に急速に進んでいる気がして……怖かったんだ」


 本当なら思い出したくもない過去。だが、ただうなづいてくれる小枝の前だと、そんな苦い過去に少しだけ向き合えたようで、溜まっていた思いを吐き出すことが出来た。


「その子に謝罪とかはしました?」


「謝罪? してるわけ……ないだろう。じゃなきゃ転校なんてしてない」


「ですよねぇ」


「頭じゃわかってるんだ、最低な行為だった、謝るべきだったと。でも、その……人に言われると、余計に腹が立ってきて。できなかった」


「では練習してみませんか?」


「練習? なんの?」


「ごめんなさいの練習です。まずはクラスのみんなに謝ってみましょう。そうすれば、いずれくるその方の謝罪の時もきっとスムーズにいきます」


「は!? それとこれとは話が違う」


「違わなくないです!」


 いつもと違い、力強い小枝の言葉に何も言えなくなる。


「知らないうちに誰かを傷つけたり、おごったり、間違いをすることは人間なら誰しもあります。でも、そんな時に反省の気持ちを伝えられなければ、自分に嘘をついて生き続けることになります。安藤君はそれでいいんですか?」


「だって……苦手なんだ。そりゃ、許して欲しいけど、無理に決まってる」


「やる前から諦めていてはダメです。不安なら、私も一緒に謝りますから」


「何でお前も謝るんだ?」


「隣の席のよしみじゃないですか。一人より二人の方が心強いです」


「……」


「……」


「……や、やっぱり無理だろ」


「ご不服でしょうか?」


「許しちゃくれないよ。暴力まで振るったし」


「許してくれますよ、それが友達ってものです」


「友達認定されてなかったら?」


「それはありえないです。ノープロブレム。この私が保証しますので」


「小枝の保証ほど不安なものはないんだが……」


「……安藤君、意地悪です。そんなこというならもう一緒に謝ってあげません」


「いや、待て、すまん。今のは俺が悪かった。だから頼む」


「ふふっ」


 俺の慌てた様子がおかしかったのか、小枝が無邪気に笑った。


「安藤君、できたじゃないですか」


「え?」


「今、謝れてましたよ」


「俺、今、謝ったのか?」


「ええ、そりゃもう、立派なほどに」


 ほとんど無意識のうちであった。


「難しいことなんてないんですよ。「ごめんなさい」が言える、それだけでいいんです」


「それだけで、いいのか?」


「いいんです」


「はは……そうか。なんてことはないんだな」


 数式のように難しく考えすぎていたのだろうか。これまでつまらない意地を張り続けていた自分が妙に滑稽こっけいに思えてきた。


「小枝……俺謝るよ。こんな俺の、謝罪に付き合ってくれるか?」


「はい♪ お供いたします」


 決意と共に見上げた空は、先ほど仰いでいた時よりも明るく清々しく目に映った。

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