第12話 小枝レポート その2

「川岡シェフ、ご自慢のオムライスには何かこだわりはありますか?」


「こだわり……とはいってもなぁ。プロにならって作った半熟卵焼きと、デミグラスソースあたりかなぁ。学生だからといって、食に関して中途半端なのは料理人の息子としてのプライドが許さないからさ」


「なるほど。その探究心がこの味を表現するに至ったわけですね」


「大げさだよ、ぴよちゃん」


 余興が続き、コント慣れしていない川岡はたじたじの様子。その様子をみんな楽しそうに見ている。俺はというと……冷たい視線を時折ときおり送って、食を進めていく。


「でもね、コスパ良く美味しい料理はこれからもバンバン作ってくんで、そこんとこよろしくね!」


「素晴らしい心意気です! では、そんな川岡シェフのオムライスを私も一口いただいてみたいと思います。うん、おいしいですぅ!!」


 わざとなのか、素なのか……オーバーなリアクション。


「胃に染み渡る味に、ふわっふわの食感。私ひよりもふわふわのひよこになった気分ですぅ」


「「「はははは」」」


 うまいこと言ったつもりなのだろうか……あきれる俺に反し、周りからは笑いが起こっている。意地の悪い俺は、そんな慣れない状況を心で小馬鹿にする。

 ぴよこ……まぁ、ピーピーうるさい『ひよこ』という点に関しては的を射てるのかもな。なんて、下らない思考にふと笑みがこみ上げる。


「安藤君、お顔がにやけてますよ?」


「ばっ! なんだよ! 急に」


 気がつけば、マイクを俺に向けている小枝がそばにいた。まさか、思考を読み取ったのか!?


「クールに食している安藤君にもぜひインタビューを行おうと思いまして」


 下らないことで笑っていることはバレてないようだ。


「お、俺はそういうの苦手なんだ。そんなことしてる間に昼食時間終って、せっかくの美味うまい飯が台無しになるぞ」


「ほうほう、安藤君も美味おいしいとのおすみ付きですね」


「まぁ、否定はしないが」


 すると周りから俺の答えに「お~」などという声が起き、ずかしくなる。


「ではでは、みなさん引き続きお昼をお楽しみください。本日の小枝突撃レポートは終了でーす」


 なごやかに笑いに包まれる雰囲気。余興を終えた小枝は、またも俺の席へとトレイを持ってきて、いただきますとオムライスを食べ始める。


「あのなぁ……」


「むふ、まんべひょう?」

【むむ、なんでしょう?】※訳


「なんで、わざわざ俺の席に来るんだ?」


「学級員としての役目です。仲間はずれを出さないのがA組のモットーですから」


「余計なお世話だ。俺は一人が食うのが好きなんだ」


「私は誰かと食べたいんです」


「だったら女子と一緒に食えよ。モブBとかうさぎとか」


「モブ?」


「やっぱいい。こっちのこと」


 口が滑った。クラスメイトの名前もろくに覚えていないのがバレる。


「むふふ、では引き続きお邪魔させていただきます」


 どこか諦めた様子の俺に、勝ち誇る笑顔の小枝。もぐもぐと満面の笑みで食を進めていく。


「一ついいか?」


「なんでしょう?」


「お前、美味うまそうに食うな」


「だって美味おいしいんですもの」


 俺は食べ物のコマーシャルが嫌いだ。そこまでの感動もないくせに、過剰に美味そうにしている。そんな奴はいないだろうと、ついつい冷めた視線になってしまうのだ。

 だが、目の前のこいつは違う。食に対しての偽りが微塵みじんも感じられない。いったいどこまでがガチなのか、本当にわからん。


「人が飯食うところなんか、腹立だしくて見てられないけど、お前のはなんか見てられるな」


「もしかしてそれは、好感を抱いてくれているということでしょうか?」


「そうではない。意地汚さが新鮮という意味だ」


「もう安藤君ったら、ご冗談を♪」


 悪態をさらっとかわされる。相変わらずペースを崩さない小枝であった。

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