第10話 睡眠と担任
『ドンッ!』
「いでっっっ!!」
頭に
「安藤、テメー……私の授業で居眠りとはいい度胸だな」
しまった。今は担任の受け持つ数学の時間……その最中に、どうやら舟をこいでいたらしい。
(くそ、今朝も昼食の材料集めに駆り出されたせいだ)
今日の俺は校内のハウス農園から野菜を取ってくる係だった。腰をかがめながらの作業で、これが思いのほか重労働なのだ。しかも、昨夜は徹夜でオンライン講義を受けていたし……疲労は否めない。
いや、そんなことよりも授業中の居眠りなんて人生初。俺ともあろうものが、なんたる不覚。
「そんな余裕かますんなら、ほれ。黒板の問題解いてみろ」
黒板にびっしりとかかれている数式。なんとも高圧的な指示に辟易しながらも、俺は黒板へ向かって歩く。
担任である三科は主に数学と理科を受け持っていて、国語、社会、英語はもう一人の童顔教師、結原菜乃先生が受け持っている。一日の授業ローテーションといえば、ほぼこの二人だ。
俺は黒板の数式をざっと流し目で見る。うむ、これなら既に予習済みだ。チョークをとり、得意げに回答をスススッと書いていく。
「できましたよ」
「安藤……てめー、なにが『できましたよ』だ」
「え、間違ってましたか?」
そんなはずはないと、答えを確認するが、どこにも間違った要素はない。
「つまんねーやつだって、言ってんの」
担任の悔しそうな一言に、クラスから「おー」という静かな歓声と拍手が湧き挙がる。
(この人、どこかおっかないんだよな)
猛獣の如くこちらを睨む担任から逃れようと、俺はそそくさ席へと戻ろうとする……が。
「待て」
担任がグッと制服の
「ぐぇ!!」
「この問題も解け」
担任がすぐさま新しい問題を黒板に書いていく。
(つぅ~……この人、意地っ張りか?)
首をさすりながら呆れかえる。だが、俺にも進学校に通っていたプライドがある。負けじとすぐさま回答した。
「チッ……次はなぁ」
互いに意地をかけた勝負。やすやすと負けてやるつもりはない。
担任は正解を出される度、どんどん不機嫌になっていく。これにはどう対応すべきなのだろうか。その正解だけはわからない。
「あの、三科先生~」
「あ? なんだ、南田。テメーは黙ってろ」
「いや、とっくにチャイム鳴ってるんですが……」
担任は睨むように左腕の時計を見る。
これは何という天の助けだろうか。授業終わったのなら、もう数学の問題に付き合う必要ない。勝ち誇った笑みを投げかけ、俺は席へと戻ろうとする。
「待て」
「ぐぇ!」
またも襟を掴まれる。
「なんなんですか、さっきから、もう!」
「誰が戻っていいって言った?」
「だって、数学の時間は終わりでしょう……たった今南田が言ってたじゃないですか」
「だから、どうした」
「は?」
「お前が『三科先生参りました、もう逆らいません、降参です』って言うまで、開放するつもりはない」
「「「ええええ~!!」」」
クラスの連中と俺の声がシンクロナイズ。どこか目の座っている担任に、教室の隅に追い込まれる俺。
「はわわわ、安藤君がピンチですぅ~」
「誰か、菜乃ちゃん先生呼んできて~」
暴走する担任をクラスメイトが数名で取り押さえる。そこからは結原菜乃先生の応援も駆けつけ、どうにか命からがら助かる俺であった。
なんで、こう、まともな奴がいないんだ。田舎ってところは……。
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