第2話 クラスは亜熱帯

「よぉ、転校生君。初日から遅刻とは良い度胸だな」


「すいません……」


 くそ、朝から色々考えすぎた。っていうか、あいつが慌てて駆けていくのを見て、なぜ本鈴ほんれいだと気づかなかったのだろうか。

 そんなわけで、俺は盛大に遅刻を決め込んでしまったというわけだ。


「まぁ、いきなり遅刻認定するのも気が引けるし、見逃してやらんこともない」


「本当ですか?」


「ただし放課後、私の手伝いな」


「はぁ……」


「『はぁ』じゃない。返事は元気よく!」


「は、はい!」


 転校生とは、授業開始前にまず職員室へと登校しなければいけないのはお約束である。そこで担任との顔合わせを行うのだが、そんな顔合わせからイキナリお説教を受ける俺であった。クラスでのあいさつやら新しい学校のことやら……ただでさえ面倒なことに、さらに放課後の手伝いとまた余計な項目が増えてしまった。


「で、転校生君。名前は確か、え~と」


「安藤です」


「そうそう、安藤だったな」


 少しサバサバ気味な担任の女性。グラマーな服をインナーとし、その上から白衣を海賊船長の様に羽織はおっている。世間一般の教師というイメージからいささかかけ離れているように思う。


「君の入るクラスな、少しというかかなり元気すぎるんだけど、悪い奴はいないからさ。あまり気にせず仲良くやってくれよな」


「……」


 元気すぎる……か。元気なんてのは俺の性格に最も合わない。俺はひっそりと過ごしたいというのに。ハズレの高校で、ハズレのクラスを引き当てるとは、本当に運がない。


「さて、転校生君を待っていたら朝のHRホームルームの時間を過ぎてしまった。さっさと行くぞ」


 担任はデスクの出席簿やら教科書やらを持ち、重たそうに腰を上げる。二人して職員室を出て、教室へと向かった。


♢♢♢


 担任の後をいて行くように廊下を歩く。


(妙に空き教室が目立つなぁ)


 外装のボロさ、中身の貧乏くささに辟易へきえきする俺に、さらに人のいなさまでも追い打ちをかける。深夜とか、絶対お化け出るだろ。


「さぁ、ここがお前の入る2年A組だ」


 そういうと、担任は静まり返っている教室のドアをガラガラと開ける。俺も続けざまに中へ入っていくと……。


「「「ようこそ、名桜なざくら高校・2年A組へー!!」」」


 いきなりクラッカー音や歓声などが教室内に響き渡り、くす玉が割られ、歓迎の垂れ幕が降りてくる。そんなド派手な演出で迎えられ、俺はあまりのことに何が起こったのか一瞬わからなくなる。


「お前らー! 歓迎はほどほどにしろって言っただろー!!」


 すかさず担任の怒号が飛ぶ。


「え~、だって~」


「ただでさえ生徒数少ないんだから、派手に迎え入れてやんなきゃ」


「そーだ、そーだ」


 クラスメイトらしき人物が反抗するように口々に文句を言う。


「南田……お前がいながら、なぜ止めん?」


「いや~、みんなすっかり張り切っちゃってて。まぁいいじゃないですか。これから仲間になるわけですし」


「ったく……とりあえず片付けろ。このままじゃ授業にならん」


「「「はーい!」」」


 な、なんなんだ、この学校は。いや、このクラスは。

 転校生一人に、この熱烈歓迎ぶり……亜熱帯だ。亜熱帯地方なクラスだ。もちろん、悪い意味での暑苦しさである。

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