第11章
パーティー
第1話 和解
アリアは薄紅色のドレスを身につけ、ミーネに長い髪を結い上げてもらった。
瞳と同じ色のドレスは、アリアによく似合っていた。髪飾りは、美しく輝く宝石があしらわれ、エスペランスが着けてくれた。ネックレスはいつもはめているお守りのネックレスだが、ドレスにも似合う美しいネックレスだ。このネックレスがエスペランスの血で作られた物だと知る者はアリア以外にいない。
薄化粧をして、紅を差してもらうと、エスペランスが背後から抱きしめてくる。
「いつも以上に美しい」
「ミーネのお化粧が上手なのよ。長い髪も綺麗に結ってくれて、ありがとう、ミーネ」
「奥様がお美しいから、綺麗になるだ」
ミーネはずっと尻尾をゆらゆら揺らしながら。今日はずっとアリアのお世話をしてくれている。
「では、そろそろ行くぞ」
「ランス様、わたし、とてもドキドキしていますの」
「私が守る。心配しなくていい」
「……はい」
エスペランスは、アリアの手を取るとエスコートする。
「行ってらっしゃいませ」
「ミーネ、行ってくるわ」
ミーネは深く頭を下げている。
「サロンに私の家族と祖父母も来ている」
「……はい」
「にこにこしておればいい」
「……とても難しい注文ですわ」
「では、黙っておればいい」
「それならできそうです」
エスペランスは緊張しているアリアの顔を見て、微笑む。
気丈に振る舞っていても、怖いのだろう。
いつも美しい顔が強ばっている。
サロンと扉をノックすると、エスペランスは扉を開けた。
アリアは誰とも視線が合わないように俯いたまま頭を下げて、お辞儀をした。
「お爺さま、お婆さま、紹介が遅くなりましたが、隣にいるのが私の伴侶のアリアです」
「……初めまして、アリアと申します」
アリアはドレスを身につけたときのお辞儀をした。
「可愛らしいお嬢様ですこと」
「エスペランスを頼むぞ」
貶されるのではなくて、褒められ、頼まれた事に驚き、アリアは視線をあげた。
「アリア、お爺さまは、先々代の魔王だ。お婆さまはその伴侶だ」
「……先々代の魔王様」
とても若く見える。歳はエスペランスと変わらないように見える。お婆さまもとても若く見える。
「アリアさん、お顔をあげていなさい。可愛らしいお顔を隠してしまうのは、勿体ないわ」
「……はい」
お二人とも優しそうな顔立ちをしている。
「アリアさん、初対面で酷いことを言った。すまないことをした。私達家族はアリアさんを、我が一族に歓迎します。それから、アミーキティアが迷惑をかけて申し訳のないことをした」
今度は、エスペランスの父が頭を下げた。
「アミーキティアを許してあげてください」
今度はエスペランスの母が、頭を下げてくれた。
「アリアさん、酷いことをしてごめんなさい。二度と、エスペランスお兄様にもアリアさんにも迷惑をかけません」
今度はアミーキティアが頭を下げている。
「お姉様。どうか兄上をお願いします」
「兄様は、一途なので、どうぞお願いします」
今度はリベルターとドケーシスが頭を下げた。
「……お姉様?」
「アリアは私の妻だ。兄妹達からしたら、アリアは姉になる」
なるほどと、アリアは納得した。
「遅くなりましたわ」
パッと姿を現したのは、第一王女のルモールだ。
「ルモール、無理に来なくても良かったのよ」
「いいえ、私はアリアさんにまだお詫びをしておりません」
そう言うと、ルモールは美しくお辞儀をした。
「お姉様、初対面で酷いことを言ってしまって申し訳ございません。それからアミーキティアが迷惑をおかけしました。どうぞお許しください」
エスペランスの腕を握っていたアリアは、戸惑ってエスペランスを見上げた。エスペランスは微笑を浮かべて、頷いた。
判断は任されたのだろう。
アリアはエスペランスの腕から手を放すと、「……はい」と小さな声で応え、綺麗にお辞儀をした。
これがアリアの精一杯だ。
「では、我々は先にダンスホールに降りていよう」
一瞬で、すべての人の姿が消えた。
「……はぁ」
アリアは極度の緊張から、その場に座りこんだ。
ぷるぷる身体が震えている。
「アリア、よく頑張ったな」
エスペランスは震えているアリアの頬に触れる。
「皆さん、お許しくださったのですね」
「歓迎すると父が言っただろう?」
「……怖くて返事ができませんでした」
「父はそんな事では怒らぬ。これから慣れていけばいい」
「……はい」
エスペランスはアリアの手を取り、座りこんだアリアを立たせる。
「ランス様、皆さん、とても若々しく見えました。祖父とはお爺さまの事だと思いますが、年齢はランス様と変わらないように見えました」
「魔王になった者は歳を取らない。血の契約を交わした年齢で容姿は変わらなくなるのだ」
「そうしたら、わたしは一生、この痩せた野良猫のような姿なのですか?」
「痩せてはいるが、野良猫ではないだろう?とても愛らしい顔立ちをしておる」
アリアは恥ずかしそうに、頬を染めた。
「曾祖父もいるが、見た目は私と変わらない」
「魔王はたくさんいるのですね?」
「魔力が高い者が魔王となる。私達の子供に私より魔力の高い者が生まれれば、私は引退になる。生まれなければ、ずっと魔王の仕事をしなくてはならない。アリアよ。私より魔力の高い子を産め。そうしたら、二人でゆっくり過ごせる」
「責任重大ですわ」
「子供は何人でも産んでもいいぞ。ルモールは35人子供がおる」
「……35人」
人数の多さに、アリアは驚いて、口をパクパクしている。
「私がずっと魔王をしていてもいい。やることも、そうそうないからな。気楽にしておれ」
「……はい」
「少しは落ちついてきたか?」
「……はい」
「後は、何も話さず、笑顔でいればいい。ダンスはしかめっ面で踊るものではないぞ。練習を思い出せ」
「……はい」
エスペランスはアリアを抱きしめて、姿を消した。
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