第2話   惚れ薬(1)

 アミーキティアは惚れ薬を作ろうと、山に入って行った。

 魔族たる者、薬くらい作れなくてどうするの?そんなの簡単よ♪

 惚れ薬の材料を1日かけて集めて、森の中のコテージで、材料をじっくり煮詰めていく。


「……臭いわね」


 とても飲もうとは思えない材料ばかりだ。

 そんな材料を煮詰め、惚れ薬は作られている。

 知識さえあれば作るのは簡単なのだが、煮詰めるときの匂いが臭い。

 魔族の女性の中には、結婚をしない女性もいて、惚れ薬や発情の薬や……いかがわしい薬から、身体を治す薬まで作り、それを売り生計を立てている者もいる。

 200年以上生きていれば、本やいろんな所から、知識を付けていく。

 薬くらいは簡単に作れるが、それなりに時間はかかる。

 食事の時間には、祖父母の家に行き、朝も昼も夜も、山のコテージに行って鍋の番をしている。

 この山のコテージは、祖父母の屋敷の使用人が寝泊まりに使っているが、今は使用人を追い出して、アミーキティアが居座っている。

 祖父母は何も言わず、使用人を屋敷で面倒をみているようだ。



「アミーキティアよ、薬師にでもなるつもりか?」


「作ってみたい薬があるの。お爺ちゃまとお婆ちゃまにはご迷惑をかけて申し訳ございません」


「やりたいことがあるならば、止めはしないが、家族に迷惑はかけてはならぬぞ」


「……そうね」



 祖父の厳しい目は父にもエスペランスにも似ている。

 魔の世界を統べる王の目だ。

 1週間かけて、やっと作った惚れ薬に甘く味付けをする。

 紅茶やお菓子に混ぜても使える物ができた。



「お爺ちゃま、お婆ちゃま、薬ができました」


「どれ、試しに飲んでやろうか?」



 祖父が、立ち上がって、アミーキティアが持っている小瓶を掴もうとしてくる。



「これは駄目です」



 アミーキティアは咄嗟に瞬間移動で自宅に戻った。

 しまった。飛ぶなら宮殿だったと気付いたときに、自宅のリビングに立っていた。




「アミーキティア、どこに行っていたんだ?」



 兄のリベルターに腕を掴まれ、ドケーシスが両親を呼びに行った。



「間違えたわ」



 すぐに瞬間移動をする。邪魔なリベルターを連れたまま、エスペランスの宮殿のアリアの部屋に飛んだ。

 ちょうど猫が紅茶を淹れているところだった。

 エスペランスとアリアが、突然現れたアミーキティアとリベルターを見た。

 急いで紅茶のカップの中に惚れ薬を入れて、薬はポケットにしまった。

 アリアが緊張して固まっている。

 猫は紅茶のカップをエスペランスとアリアの前に置いた。



「いらっしゃいませ。すぐにお茶を淹れます」



 猫は訛りもなくそう言うと、新しく茶葉を出して、紅茶を淹れだした。



「アリアの紅茶には蜂蜜を入れよう」



 エスペランスは一つのカップに蜂蜜を入れた。



「それで、何をしに来たんだ?アミーキティア」



 アリアの前にカップを置くと、エスペランスはアミーキティアを睨んだ。



「まだ罰は与えていないぞ。離宮で待て」



 エスペランスの口調は冷たい。

 アミーキティアを見て動揺したアリアは、カップを持って口に運ぶ……。



「それを飲んでは駄目」



 カップを落とそうとしたとき、アリアは既に紅茶を飲んでしまった。



「まずいわ」



 顔を顰めアリアは真っ直ぐ前を見た。アミーキティアはアリアと目が合った。

 アリアの頬が赤く染まる。



「わたし、どうしたのかしら?アミーキティア様を見ると、胸がドキドキするの」



 エスペランスと手を繋いでいたアリアが、頬を染めて、恥ずかしそうに俯いた。

 仲良くエスペランスと手を繋いでいた手を、すりと放して両頬を押さえて恥じらっている。



「アミーキティア様、わたしをお連れください」



 真っ赤に頬を染めたアリアは、立ち上がると、アミーキティアの前まで歩いて行って、熱い眼差しを向ける。



「アミーキティア、アリアに何を飲ませた?」


「何も飲ませてないわ」


「嘘をつけ。リベルター、アミーキティアを押さえつけろ」


「兄上、分かりました」



 二人の男に力いっぱい押さえつけられたアミーキティアは、床に倒され洋服の中を選られた。



「お兄様達止めてください」


「この瓶はなんだ?」


「……惚れ薬ですわ」


「アミーキティア様に何をするの?皆さん、アミーキティア様から離れてください」



 アリアは、エスペランスの腕を引っ張る。引っ張って、アミーキティアを救おうとしている。



「なんだと!」



 エスペランスはアミーキティアの胸ぐらを掴んだ。



「解毒薬は作ったのか?」


「ありませんわ」


「アミーキティア様、わたしを抱いてください」



 頬を染めた愛らしい顔が、アミーキティアに近づき、エスペランスはアリアを引き離した。



「放してください。わたしの愛するアミーキティア様のところへ行かせてください」


「リベルター、アミーキティアを連れて行き、すぐに解毒薬を作らせろ。私が作ってもいいが、材料を集めてくれ」


「わかりました」


「すぐに連れて行け」



 パッと二人の姿が消えた。



「アミーキティア様。……愛しい、アミーキティア様。わたしを置いてどこかに行かれてしまったわ」



 アリアはさめざめと泣いている。

 アリアのカップの中には、一滴ほどの液体が残っていた。



「ミーネ、少し外に出ていろ」


「はいだ」



 ミーネは急いで外に出て扉を閉めた。



「アリア、これを飲みなさい」


「嫌よ。アミーキティア様がいないなんて、悲しい」



 小さな顔を押さえつけ、口を開けさせると、その一滴を口の中に垂らした。



「私を見ろ」



 アリアはエスペランスを見るが、目から涙を流す。



「アミーキティア様の所に連れて行ってください」



 ポロポロと涙を流している。

 たった一滴では足りなかったようだ。



「ミーネ入っていいぞ」


「はいだ」



 ミーネは急いで部屋の中に入ってきた。


 アリアは泣いている。



「惚れ薬で私を惚れさせれば、アミーキティアの事は忘れるか?」



 エスペランスは思案する。



「父のところに行ってくる」


「はいだ」



 エスペランスはアリアを抱えて、アミーキティアの所に飛んだ。



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