寝れない夜だから。

人間 越

眠れない夜だから。

 チクタクチクタク。

 眠れない夜には普段気にならないような音がやけに気になる、なんていうのは良くある話だろうが、今の私の眠れなさと来たら度を越している。

 その証拠に、チクタクとなんて聞こえるがそんな秒針の動く時計なんて持っていない。目覚ましはスマホだし、普段時間を確認する手段もスマホかテレビ。腕時計もデジタル表示である。

 まあ、気のせいなのだろう。そう思えば聞こえない気もする。


 ドクドクドクドク。

 だが、代わりに聞こえてくるのは鼓動。

 別に運動後でもなければ、心臓が悪いわけでもない。緊張もしてないし、焦ってもいない。至って平穏な脈だ。だが、それが気になる。気になって眠れない。ていうのも別に疑問があるわけじゃないから解消のしようがない。ただ自分のうちで脈打つものが、巡る血の存在が気になるのだ。

 なれば、止めるしかない。その時は死ぬときだろう。


 さてと。

 脳内でばかり多弁になっている。これはいけない。

 全て口に出していたら、それはそれで別の問題が生じるが。

 はて、自分はこんなにも色んなことに興味を持つ性分だったろうか。

 時計の音も、鼓動も、ずっと絶え間なく続いていることなのに、なんでこんな時に限って気になるのだろうか。


 気になると言えば。

 クラスの古泉こいずみさん。

 昨日、珍しく雑談をした。いや、雑談として数えていいのか分からない二、三言だ。私か密かに趣味にしているラップについての話題を振ってくれたのに、メジャーな名前しか挙げられなかった。いやでも、これは近々に妹から指摘されたことがあったからであって。好きな事だけいっぱい喋らないでよ、普通の人は知らないよ、もっと分かりやすいの教えてよ。なんて言われたのが念頭にあれば、仕方がない。そうでなくとも不慣れな異性との会話でぎくしゃくしてしまうのに。

 あー、なんで私はこんな当たり前なことが、異性と喋る、いやそれ以前にそんなに親しく相手とほどよく会話をするだけのことが出来ないのだろう。自分よりも成績の悪いクラスメイトでも出来ているのに。

 

 いやいや、その言い方はどうなんだろう。

 成績の優劣なんてコミュニケーション能力とは関係なくないか。ないこともないか。必ずしも相関関係があると言えないだけで。そう考えると私は人並みに勉強はできるだけな人間なんだな。

 なんて役に立たないんだ、勉強。そしてそんなものが少し出来たところでどうなんだ。

 いやそれでも勉強は、普遍的な尺度だろう。社会にとって教養は必要だし、世の中で最も用いられる評価法だろう。偏差値然り、成績然り。テストの結果が道を左右するなんてことは往々にある。

 けれども、馬鹿でも世の中を上手く渡る奴は渡る。愛嬌というか、知識がないなりの処世術というか。どうせなら、そういう術をもっと身につけたい。というか、この時点までに持っておきたかった。

 どうせ持ってることでなんら得しない並程度の成績なら、それらを投げうってでも普通な会話能力が欲しい。それがあった方がいい。得な気がする。


 あー、いや。何の話だっけ、もういいや。

 こんなこと考えても仕方がない。

 別にこんなこと考えたところで成績とコミュ力は入れ替わらないし、古泉さんとのぎこちない会話も無かったことにならない。

 そもそも、悪いことしたわけじゃないのだ。

 失敗らしい失敗でもない。会話は続かずとも、一般人に合せた返答はした。妹にいわせれば、これは進歩なのだ。いや、そうでもないか。どっちでもいい。

 

 こんな余計なことを考えるのは、眠れない夜のせいだ。

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