【KAC202210】姿の見えないストーカーに追われる猫人種

宮野アキ

姿が見えない彼は

 とある国に、エルデルと呼ばれている街があった。


 その街には、冒険者ギルドと呼ばれている組織の支店があり、冒険者ギルドは街の住人が依頼を出せば何でも、代わりに仕事を担ってくれた。


 家の掃除や街のゴミ拾いなどの清掃雑務から、他の街に行く時の護衛や危険生物の魔獣討伐などの荒っぽい仕事まで何でも受け付け、その仕事を冒険者ギルドに所属登録しているクラン、又はチームに依頼を出す。


 そんなギルドの前に真夜中だというのに、多くの冒険者が集まっていた。


 そして、その冒険者の手にはそれぞれ筒状の光を照らす魔道具を持って雑談などをして各々暇を潰していた。


 すると、ギルドから額に緑色の宝石がある女性、宝石人種クリスタルウィルのクララが冒険者ギルドから出て来た。


 クララは冒険者ギルドの受付嬢であり、ギルドの前に冒険者を集めた人物でもあった。


「皆さん、今日は騎士団が発行した街の見回りの依頼に集まって頂きありがとうございます…………今回の依頼の見回りのルートは事前に事前にお渡しした地図通りですので、準備が出来次第、出発して下さい。因みにこの依頼は後日、騎士団に報告するので見回りの時、何があったのかしっかりと報告をお願いします……それでは皆さん、お気を付けて」


 クララが言葉を終えるとそれぞれ事前に渡されたルート通りに出発した。


 その時に冒険者達は――


「この依頼、貴族が絡んでるのか?面倒だな」


「そうだな。後でいちゃもん付けられない様にしっかりやろうぜ」


「そうだな。なんだってこの街は冒険者嫌いのアイツが治めてるからな。後で何を言って来るかわからない」


 などと話しながら見回りに向かっていった。


「レルンさん、ちょっといいですか?」


 一人の男がクララに呼び止められた。


 その男の名前はレルン・アイストロ。


 冒険者風の恰好をしており、黒髪、細目で、腰には長物の刀と短刀を腰のベルトに差していた。


 そんなレルンはクララに呼び止められて小首を傾げる。


「どうしたクララさん。何か俺に伝え忘れた事でも?」


「いいえ、実はレルンさんと一緒に回って欲しい子がいるんです」


 クララがそう言って後ろを振り向くとそこには黒い髪に黄色い瞳、猫の様な顔と耳、尻尾が生えた少女がいた。


「この子は、猫人種リーベルタースのミーシャちゃんです。この子と一緒に見回りに行ってもらってもいいですか?」


猫人種リーベルタースのミーシャです。よろしくお願いします。先輩!!」


 元気よく挨拶するミーシャを見て、レルンはにこやかに笑って頷く。


「ミーシャちゃんか、よろしく。俺は眼人族ヴァワールのレルンだ……クララさん、この子と一緒に見回りに行けばいいのか?」


「はい、この子はまだ新人ですので、レルンさんが色々な事を教えて上げて下さい」


「なるほど、了解した。じゃあ、ミーシャちゃん一緒に見回りに行くか」


「はい!よろしくお願いします!!」


 レルンとミーシャの二人は街の見回りの為に、夜の街を歩きだした。



◇  ◆  ◇



「へぇ〜、レルン先輩は魔眼族ランミュゲなんですね。初めて会いました」


「あはは、そうなんだね。ミーシャちゃんは猫人種リーベルタースの何の部族?やっぱり黒猫人族フェリーキタース?」


「はい、そうです!!」


 レルンとミーシャは街灯があるとはいえ、薄暗い街道を雑談しながら歩いていた。


 レルンは光を照らす魔道具で足元を照らしながら、何か異変が無いかと気を配り。


 ミーシャは光を照らす魔道具を使わずに軽い足取りで見回りをしていた。


「やっぱり、そうなんだね。光の、魔道具を持ってないのも、黒猫人族フェリーキタースだから夜でも良く見えるの?」


「いえ、猫人種リーベルタースなら、皆夜目はいいと思いますよ。私達は多少の灯りがあれば、昼間の様に見えますから」


「へぇ~そうなんだ……それにしてもこの街では黒猫人族フェリーキタースは初めて会ったけど、他の街から引っ越して来たの?」


「はい、そうです。お母さんと一緒に最近引っ越して来たんですよ……でも、やっぱりこの街では黒猫人族フェリーキタースは珍しいんですね」


「……?何か会ったの?」


「特別に何かあった分けてはないんですけど……街で歩いて居る時にもの珍しそうな目で見られたり、夜中一人で歩いている時にたまに誰かに見られている様な気がして……実は今も何かに見られている様な感じがして……」


「何!?…………」


 レルンは軽く周りを見回すが人影はどこにも見えない。

そして、ミーシャも周りを見渡すが何も見えない。


「やっぱり、どこにも居ないですよね……最近、多いんですよね」


「そうか……それは怖いね。ギルドにはそれは話したの?」


「はい……『黒猫人族フェリーキタースは珍しいから見られているだけでは?』や『時間が解決する』とか言われました」


「う〜ん……それは間違ってないけどな。早くそういった事が無くなるといいな」


「はい!とにかく今は見回りを頑張りましょう!!」


 ミーシャがそう言って歩き出すが、レルンは後ろを振り返り、一点を見つめていた。


「レルンさん、どうかしました?」


「いや、何でもない……早くこの仕事を終わらせよう」


 レルンはそう言ってから、ミーシャに追いつき、見回りを続けた。



 二人の後ろから人影が無いにも関わらず、ペタリ、ペタリと足音がなる…………だが、二人はこの事に気が付かなかった。



◇  ◆  ◇



「――まぁ、見張りはそんな感じだったよ」


「レルンさんお疲れ様です。ミーシャちゃんもお疲れさま」


「はい、ありがとうございます。クララさん」


 見回りを終えたレルンとミーシャは冒険者ギルドへと戻り、クララに見回りの報告をしていた。


「それじゃミーシャちゃんはもう帰っても大丈夫だよ。レルンさんは少し話したい事があるのでここに残って下さい」


「はい、ありがとうございます!」


「了解」


「それでは、レルン先輩、クララさん。また!!」


「おう、気を付けて帰れよ」


「はい、またねクララちゃん」


 ミーシャが元気良く挨拶して家に帰って行くのを見送ったレルンとクララ。


 クララは先ほどまで笑顔だったのを険しい顔にしてレルンを見る。


「……レルンさん。この依頼、貴族が絡んでます」


「そりゃあそうでしょ。騎士団を動かせれるのは貴族しか居ないんだから……それでどう絡んでるの?」


「はい……実はこの依頼、急遽決まった物で裏を取る前に冒険者達に依頼を出すことになったんです。それで、つい先ほどこの依頼を出した貴族が不自然な事が分かったんです」


「不自然?貴族が騎士団を操った事が?」


「いえ、違います。この依頼を出した貴族が、この街の領地に属する貴族ではなく、他の領地に属する貴族なんです」


「え!?なんで、他の領地の貴族がエルデルの街の騎士団を使って、依頼なんて出すんだ?」


「はい、あまりに不自然なので調べました。その結果、この依頼の依頼主はロミニストン男爵の当主の子供。フェーバリット様が出されたみたいなんです…………因みに、レルンさんは避役人種ファベールって種族を知っていますか?この貴族が、その種族みたいなんですけど……私知らなくて」


避役人種ファベール?また珍しい種族の名前を出たね……確か、自身の体を周りの風景に同化させる事が出来る種族何だ……け…………――!!」


「レルンさん!?どうしたんですか、待って下さい!!」


 レルンはクララの静止を聞かずにギルドを飛び出した。



◇  ◆  ◇



「今日は遅くなったし、早く帰らないとお母さんが心配する…………」


 ミーシャはギルドから帰っている途中、誰かの視線を感じて、ミーシャは後ろを振り返る。


 だが、後ろには誰も居らず、ミーシャは肩を震わせる。


「誰かに見られている様な気がするんだけど……気のせい?早く帰――むぐ!?」


 ミーシャが早く家に帰ろうとした瞬間、突然後ろから口を抑え込まれ、手足が何かに固定されて、身動きが取れなくなった。


 突然の事で動揺するミーシャ。


 慌てて振り解こうとするが中々解けず、せめて犯人の姿を確認しようと後ろを確認するが――


「――むぐ、ぐ!?」


 後ろには誰も居なかった。


 犯人の姿がない事に困惑していると、耳元で声が聞こえて来た。


「ぐふふ、やっと捕まえれたぁ。これでもう、君はボクチンの物だよ。グヘヘ」


「むぐぐ!!」


 耳元で気持ち悪い声を掛けられてミーシャは全身に鳥肌が立つ。


 何とか振り解こうとするが抜け出す事が出来ず、絶体絶命と思った時――


「グベべー!!」


 そう気持ち悪い叫び声が耳元で聞こえると、ミーシャの口を抑え込んでいた物が無くなり、自由になった。


 突然の事で何が起こったのか困惑しながら後ろを振り返るとそこには、長物の刀と短刀を持ったレルン。


そして、両腕が切り落とされて、血を垂れ流している全裸のカメレオンに似た人物が倒れていた。


「イダイ!イーダイ」


「はぁ、はぁ……何とか間に合った。ミーシャちゃん!急いで一緒に冒険者ギルドに向かうぞ!!」


「え!?でも――」


「いいから!!」


「は、はい!?」


 レルンは何が起こっているのか分からず戸惑っているミーシャの手を引っ張り、カメレオンに似た人物を放置して冒険者ギルドへ向かった。





 その後。


 ミーシャを襲ったカメレオンに似た人物、フェーバリット・ルル・ロミニストンは、すぐに冒険者達に不審人物として拘束され、治療と称して軟禁。


 その時の尋問では、ミーシャを襲ったのは自分の妾にする為に仕方ない事と供述した。


 もちろん、こんな誘拐に等しい事は貴族であっても許される事では無く。


 フェーバリットは廃嫡され、ロミニストン男爵家とは関係ないとしてフェーバリットは実家の権力も使えなくなり、誘拐の犯人として捕まる事となった。



 そして――


「うふふ、もう最近は変な目で見られてない、良かった」


 もう、誰も付けまわる人がいなくなったミーシャは足取り軽く、真夜中の帰り道を歩いていた。







 のだが――


 コツ、コツと人影が無いにも関わらず靴の音が鳴り…………ミーシャの後を付いて行った。


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